既に世界156カ国・地域で5億7800万回を超える接種が行われた新型コロナワクチン(2021年4月1日現在)。日本でも2021年2月から接種が始まりました。新型コロナウイルスの感染を恐れる一方で、急ピッチで開発されたワクチンへの不安から、「ワクチンを打つべきか」と悩む方もいるでしょう。どんなワクチンでも、大切なのはよく分からないまま過度に恐れ過ぎずに正しい知識を基に判断すること。新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーである、川崎市健康安全研究所所長・岡部信彦さんに、知っておくべきワクチンの最新知識を聞きました。

(1)WHOも驚く コロナワクチンが短期間に完成した理由5 ←今回はココ
(2)新型コロナワクチン接種のときにはこんなことに注意
(3)40代、50代が「今さら」接種すべきワクチンとは?

編集部(以下、略) 日本でも2021年2月17日から新型コロナワクチンの接種が始まりました。ワクチンが完成するのは、約1年前の20年3月時点で世界保健機関(WHO)は12~18カ月先とみていましたが、20年12月8日には英国で世界初の新型コロナワクチン接種が始まりました。想定より大幅に早く進んだ理由は何でしょう?

岡部信彦さん(以下、岡部) それにはいくつかの理由があります。一つはコロナウイルスを原因とするSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)が2000年代に入って流行したため、コロナウイルスに関する研究が進んでいたことです。

 また、遺伝子を解析する技術が飛躍的に向上し、遺伝子情報を用いたワクチンに関する研究が進んでいたため、遺伝子配列が分かればワクチンを造り出す技術が既にあったことも大きな理由として挙げられます。

おなじみのワクチンとは製造方法が違う

岡部 皆さんになじみ深いワクチンは、「生ワクチン」(病原性を弱めて病気を起こさないようにした病原体が原料。麻疹・風疹ワクチンなど)か、「不活化ワクチン」(感染力をなくした病原体や、病原体を構成するたんぱく質が原料。インフルエンザ、4種混合ワクチンなど)です。これらのワクチンの開発と製造には時間がかかります。

 例えば不活化ワクチンであるインフルエンザワクチンの製造を例にとると、ウイルスは鶏卵(有精卵)に入れてウイルスを大量に増やし、それを原材料にします。1バイアル(瓶)分のワクチンを造るためには清潔な環境で育てられた受精卵が2個くらい必要。資源も時間もかかるのです。第一、元気なニワトリが多数必要です。

―― 新型コロナのワクチンは、従来のワクチンとは違う製造方法を用いているのですね。

岡部 新型コロナのワクチンは、これまで動物に対するワクチンや新たな感染症に試用されてきた「遺伝情報(核酸)を用いたワクチン」の技術を今回用いました。これで、開発の方法やスピードが一変しました。