心と体、食、社会課題に関わり続けてきた作家、落合恵子さん。人生後半戦に向けて揺れ動くARIA世代に伝えたいことがたくさんあるといいます。「あなた」を生きるのはあなた以外にいない――そんなメッセージを込めて、暮らしと仕事、家族、社会の今を通して「忘れてほしくないこと」を届けます。

 春なのに、「春!」という感覚がまったくない日々が続いている。いまいましい。

 それでも、この空間だけはマスクフリーのわたしの小さな庭ではいま、春の花々が次々に咲いてくれている。

 冬から春に向けてのこの庭は、各種水仙の黄とビオラのオレンジが色の割合としては多くを占めていたが、陽春から初夏に向けては、水色や紫系、アクセントカラ―としてピンクや白の花が多い。

 大好きなロベリアをはじめ、香りがいいムスカリ。小さなぶどうを逆さにしたような花穂も可憐だ。薄水色の花が印象的な、忘れな草。10代の頃、Forget me not、この花にまつわる伝説を、生物の授業か何かで習って、妙に憧れたことがあった。そのほか、つぼみの色が、すでに開花したときの花色を予想させてくれる紫がかった紅色のチューリップ。

 あと半月もすれば、矢車菊やアグロステンマも咲いてくれる。両者ともに丈が1メートル以上もあって、光がまぶしい陽春や初夏の午後、風に揺れる様子はうっとりとするほど美しい。とてもタフな植物で、秋に種子まきをすれば、翌年の春には咲いてくれる。ぜひ、お試しを。

 ひとつぐらい、「手間暇かかる」ものが身近にあることで、それに向かい合うときだけはとてもシンプルな精神状態、心理構造になれる場合がある。複雑な社会において、シンブルな精神構造は、ときに降り積もる疲労やストレスを解きほぐしてくれる。