経済・社会環境が激変する中、生き残る組織とそうでない組織の差が鮮明になっています。予測が困難な状況で選択の糸口を発見しイノベーションを起こすための最重要事項、それは「いかに失敗するか」ということ。組織が生き延びるための失敗の要件を、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が経営学の観点からひもときます。全3回でお伝えします。

(1)人にも組織にも「失敗の時代」が到来する理由
(2)イノベーションを生むリーダーはいつも笑顔 ←今回はココ
(3)革新を生む失敗をするための「定性評価」と「ヤミ研」

―― 前回、イノベーションを起こして生き残る組織には、失敗に関して3つの条件があることを解説していただきました。近年、経営学で失敗がこれほど注目されているのは、イノベーションの中身も変わってきているということでしょうか。

入山章栄さん(以下、敬称略) そもそも、70年代、80年代になぜ日本企業が伸びたかというと、人口増加が著しかったからです。そして企業がやっていたことは米国のキャッチアップ型で、既存の商品を改良して安価で販売するという、漸進型のイノベーションでした。当時は、中国という強力な競争相手もいませんでした。ちなみにそうした環境下では「ミスをせず、欠品率を下げる」ことが価値を生んでいたので、企業としては同質性の高いメンバーで構成された集団が統率しやすく、有利でした。

 しかし、90年代のバブル崩壊後、大転換が起きて、既存市場の秩序を覆して価値を生み出す破壊的イノベーションの時代になりました。日本の既存の組織は根本的に時代に合わなくなっていたにもかかわらず、仕組みがあまりにもかみ合い過ぎていたために、平成時代の30年をかけても直せなかった。日本の大手企業は構造的にイノベーションを起こしづらい仕組みのまま、生き永らえてしまったのです。

「日本の大手企業は、破壊的イノベーションへの構造転換ができないまま生き永らえてしまった」(早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授)
「日本の大手企業は、破壊的イノベーションへの構造転換ができないまま生き永らえてしまった」(早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授)