TBSアナウンサーとしてのキャリアをこの春に“卒業”した堀井美香さんと、2016年に朝日新聞社を退職した稲垣えみ子さん。共通するのは、「長年勤めた会社を50歳で辞める決断をし、新たな道に進む」という点。最終回となる今回、堀井さんがしみじみと「胸に刺さります」とつぶやいた、稲垣さんのある一言とは?

(1)稲垣えみ子&堀井美香 50歳で会社を辞めるという決断
(2)稲垣えみ子「50歳で辞める」10年間となえ続けた呪文
(3)堀井美香「会社で習得した 『型』を次世代に伝えたい」
(4)稲垣えみ子 50代でピアノ再開、「できない」から没頭 ←今回はココ

「ピアノへの取りつかれ具合がすごい」「ザ・無意味です」

堀井美香さん(以下、堀井) 稲垣さんの新刊『老後とピアノ』、一気読みしました! 私もピアノをやっているんです。

稲垣えみ子さん(以下、稲垣) えーそうなんですか! どれくらい弾いてます? 毎日?

堀井 いえいえ、私はあくまで癒やしのための趣味というか、時間があるときにポロロンと弾く程度なので、稲垣さんが40年ぶりに再開したというピアノ練習の熱の入れように驚きました。早朝や深夜に弾く場所を工面して、寸暇を惜しんで1日何時間も……。

稲垣 そうなんですよ、1日最低2時間弾いています! その2時間というのも、あまりやり過ぎると指が故障するからやむなくセーブしているだけで、できることならもっと弾きたいんです。

堀井 すごいですね。私はこの間、YouTubeで老人ホームのピアノで優雅にシューベルトを弾くご婦人の動画を見て、「老後はこんなおばあちゃんになれたらいいな」なんて思ったんですけど、稲垣さんの取りつかれ具合はレベルが全然違いますね(笑)。

稲垣 私が老人ホームに入居してそこにピアノがあったとしたら、おそらく騒音問題で苦情が殺到して追い出されると思う(笑)。私は世界有数の「ピアノのことを1日中考えている人」だという自信があります。あ、すごく下手なんですけどね。そのシュールさもまた我ながらすごいと思う。

堀井 会社を辞めた後は定職を決めずにフリーでいたいとおっしゃいましたが、ピアノに関しては毎日弾いても苦にならないんですね。

稲垣 仕事じゃないから……かな? お金ももうからないし、誰にも歓迎されないし、ただただ自分一人が喜んでいるだけ。まさに「ザ・無意味」なんですが、無意味だからこそ人目を気にしなくていいのが最高なんですよね。ただ純粋に楽しさだけを追求できる。仕事となると、会社員だろうがフリーだろうがそうはいかないですから。

堀井さんが一気読みした『老後とピアノ』(ポプラ社)。この本がきっかけで今回の対談が実現しました
堀井さんが一気読みした『老後とピアノ』(ポプラ社)。この本がきっかけで今回の対談が実現しました