1990年代に『格好悪いふられ方』『Rain』『十人十色』などのヒット曲を連発。俳優や司会者としても活躍していた大江さんは、47歳で全活動をストップしてジャズの名門大学に留学しました。以降、米国を拠点にジャズピアニストとして活躍する大江さんを襲ったパンデミック。大江さんは、ニューヨークの街で何を考え、どう行動したのでしょうか。

(1)コロナ禍で実感した「またゼロに戻るとき」
(2)60歳の今「そろそろ夢を口に出していこう」 ←今回はココ
(3)20歳、100歳の自分に声をかけるなら…

―― ステイホームが長引く中、どうしても「あれもできない、これもできない」という気持ちになりがちです。最新刊『マンハッタンに陽はまた昇る~60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)に「失ったものを数えるのは簡単だ。コロナで得たものを数えてみよう」という言葉があって、ハッとしました。

大江千里さん(以下、敬称略) 47歳でニューヨークに飛び込んでから積み上げてきたものが、パンデミックによってゼロになったように思っていました。でも、得たものもあると気づいたんです。人々の消費が減ったことで自然環境に何らかの影響をもたらしたのか、例えば、今年のニューヨークは僕が最初にほれ込んだ、マイナス11度の厳しい冬が戻ってきたような寒さでした。息も凍るような空気を吸い込むと「わぁ、これがニューヨークなんだよなぁ」と奮い立つんです。毎日のように事件は起きて、新型コロナウイルスのワクチン接種の後にアナフィラキシーショックになったりもするんだけど(連載第1回参照 「コロナ禍で実感した『またゼロに戻るとき』」) 、60歳でまた生きる意味が1個増えたように思えるなんて「So Lucky」だなって。

 今後、どんどん世界は変わっていき、資本主義だけに根差す価値観も終わって新しい価値観の時代が来るのかもしれないと感じます。「利益が神様」の資本主義では社会の分断が起こる。僕らが住んでいる地球だって、地震や異常気象などの「(地球が崩壊するかもしれないという)予兆に気づくきっかけ」が過去に何度もあったにも関わらず先送りにして、思いもよらぬコロナウイルスという見えない相手にぶちのめされ、気づかされることになった。

写真は2020年1月の取材時に撮影。今回は、ブルックリンの自宅からリモート取材に応じた
写真は2020年1月の取材時に撮影。今回は、ブルックリンの自宅からリモート取材に応じた

―― 個人レーベルのCEOである大江さんは、変わる世界に対してどう行動したのですか。

大江 僕のような「ひとりビジネス」はどうなるか。今は、次の時代の仕事を真剣に考えるための猶予期間だと気持ちを切り替えました。粘ろう、我慢しよう、頭を使おう。そして、そのプロセスを自ら発信しようと、見よう見まねでスマホで動画を撮る練習をしてYouTubeにアップしていました。そうやって発表した1分20秒の作品『Togetherness』が“40 songs about the coronavirus pandemic”に選ばれたりして(アーティストがステイホーム中に制作した40曲にスポットを当てた特集を米ニューヨーク・AP通信が制作。ボン・ジョヴィ、ザ・ローリング・ストーンズ、アヴリル・ラヴィーンらに並んで大江さんの『Togetherness』も選ばれた)。