パンデミックの日々…自分のかたくなさが取れた

大江 そうです。ジャズを学ぶためにニューヨークに飛び込んだのが2008年、47歳のとき。52歳で自分のレコード会社を立ち上げて、ライブができる場所を一つひとつ開拓してきましたが、パンデミックでそれまで築いてきたものがいったん無くなり、振り出しに戻ったかのような感覚がありました。ステイホームが続いていた2020年春先の朝、窓のシェードを上げようかどうしようか一瞬迷う。家の中に1日中こもっているのなら、外の景色なんて必要ないのではないか、それでも始まりの儀式をやっておこうとシェードを上げて、書き割り(編集部注:舞台の背景画)のように見えるロックダウンのニューヨークを目にしていましたね。

―― 心が沈み込みそうになるときはありましたか?

大江 朝、年を取ってきた愛犬のぴーすが僕の作ったごはんを食べてくれて、いいうんちが出て、おしっこも出て。まずそのことに感謝の気持ちで1日を始める。続けてデイリールーティンのピアノの練習をすることによって自信回復。自分がちょっといい人間になったような気がして、新曲のいいフレーズが浮かんで、でも頓挫して。でもその気持ちをあまり引っ張らずにクッキングへ。冷蔵庫に残っているものを集めてカレーなんか作っちゃおうかな、と。花なんか飾ったこともなかったのに部屋にバラの花を飾ったりして、「逆らわずに忠実にすべてを受け入れて、やってみよう」と思うようになったときに、ああ、僕はパンデミック前よりもかたくなさが取れてきたのかな、と思いました。

大江さんと一緒に海を渡った愛犬のぴーす。通称ぴと一緒に暮らしている。最新刊『マンハッタンに陽はまた昇る~60歳から始まる青春グラフィティ』より
大江さんと一緒に海を渡った愛犬のぴーす。通称ぴと一緒に暮らしている。最新刊『マンハッタンに陽はまた昇る~60歳から始まる青春グラフィティ』より