文化の花開いたルネサンス期、政治的には混迷を極めていたイタリア・フィレンツェ共和国の外交官だったマキャベリが残した『君主論』。マキャベリが説くのは、「非連続な時代において、国を統治する君主はどうあるべきか」。数多の企業再生・改革の修羅場をくぐり抜けてきた木村尚敬さんは、「約500年を経て色あせない普遍性があり、現代のリーダーが必読の書」と言う。令和を生きる私たちが『君主論』から学べることは何か。全3回でお届けする。

(1)善良なリーダーが部下を不幸にする?『君主論』に学ぶ
(2)リーダーは嫌われて当然 目指すゴールが明確なら大丈夫
(3)リーダーの仕事は「決断」 決められる人になるには? ←今回はココ

無知なリーダーは部下から尊敬されない

 最終回も『君主論』が説くリーダーシップを、現代のケースに当てはめながら学んでいきましょう。まずは、「昇進してリーダーになったものの、配属先が未経験の仕事や領域を担当する部署だった」というケース。このときに参考になるのは、次の一節です。

■それゆえ軍事に無知な君主は他のどんな不都合にもまして兵士達に尊敬されず、彼の方でも兵士達を信用できないことになる。――『君主論』第14章より

 私自身が『君主論』全体の中で、最も胸に響いたのもこの一節です。無知なリーダーは部下から尊敬されない。そして、そんな部下をリーダーも信用できない。これは、マキャベリの時代から500年を経た現在にも大いに当てはまります。

 部下たちが「お手並み拝見」となっている状況なら、まずはとにかく知識や情報をインプットする。そして、ある程度の勘所をつかむまでは無理に果敢な意思決定をしようとしないほうがいい。部下たちにすれば、業務経験や業界知見は自分たちが勝っていて、「この上司は分かっていない」ということが明らかだからです。

部下からなめられないコツは…
部下からなめられないコツは…

 一方で、「しっかり理解してから取り組もう」などと悠長に構えていると「この上司は勉強しに来ているのか?」と、これもまた不信感を与えてしまう。そういう局面においては、いくつか「クイックヒット」を打って部下との信頼関係を築く必要があります。

 例えば、部下になめられない程度の知識を得てリーダーシップを発揮できるまでの期間は3カ月くらいと見積もったなら、「私はこのチームで、インテグリティー(誠実、真摯さ)を大切にしていきます。仕事に関する具体的な指示は、3カ月待ってください」と最初に宣言してしまう手もある。それによって部下たちも「この上司は何か違うな」と期待してくれるかもしれません。