文化の花開いたルネサンス期、政治的には混迷を極めていたイタリア・フィレンツェ共和国の外交官だったマキャベリが残した『君主論』。マキャベリが説くのは、「非連続な時代において、国を統治する君主はどうあるべきか」。数多の企業再生・改革の修羅場をくぐり抜けてきた木村尚敬さんは、「約500年を経て色あせない普遍性があり、現代のリーダーが必読の書」と言う。令和を生きる私たちが『君主論』から学べることは何か。全3回でお届けする。

(1)善良なリーダーが部下を不幸にする?『君主論』に学ぶ
(2)リーダーは嫌われて当然 目指すゴールが明確なら大丈夫 ←今回はココ
(3)リーダーの仕事は「決断」 決められる人になるには?

部下の裏切りを予測しておく

 今回から、『君主論』が説くリーダーシップについて学んでいきましょう。まずは、リーダーが避けて通れない「対・部下の壁」です。『君主論』には、平時の言動だけで部下を信頼してはならない、というストレートなメッセージがあります。

■それゆえこのような君主は、市民達が君主を必要とした平時の状態に基づいて人間を信用してはならない。それというのも人間は死ぬ危険がほとんどない場合にははせ参じ、支持を約束し、君主のために死ぬ覚悟があると述べるが、君主が市民達を必要とする時節が到来すると少数の人間しか彼のもとには見いだされない。――『君主論』第9章より

 『シン・君主論 202X年、リーダーのための教科書』の共著者である、経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦氏には「人はみな、インセンティブの奴隷だ」という名言があります。

 組織では、メンバーがおのおののインセンティブ(動機)構造を持っています。その中には「この事業を構築したい」「社会に貢献したい」というもののほかに、「出世したい」、「私腹を肥やしたい」というものもあるかもしれません。

 そして、例えば、今までは慕っていた上司が大きな失敗をしたときに、手のひらを返すように批判側に回るというように、「有事」になって初めてそのメンバーの本音が顔を出してくる。リーダーの側は、いかに平時にそれを読み解くか、ということが大事になってきます。

有事になって現れる「メンバーの本音」に翻弄されないために…
有事になって現れる「メンバーの本音」に翻弄されないために…

 部下とは仕事はもちろん、面談などで数多くのコミュニケーションの機会があるはずです。そのときの発言などから、「この人はなぜこの会社で、自分の部下として働いているのか、どんなインセンティブで行動する人なのか」ということを普段から考えることが大切です。

 相手の身になって考えてみることは、その人のキャリアをサポートするのにも役立つでしょう。そして「有事」が訪れて部下がインセンティブに基づいて行動した際には、「突然裏切られた」ではなく、「これは起こりうることだった」と冷静に受け止めることができるのです。