人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。『はいからさんが通る』など数多くの作品が知られる漫画家の大和和紀さん。「歴史漫画はヒットしない」の定説を覆し、『はいからさんが通る』、源氏物語に題材を得た『あさきゆめみし』などが大ヒット。歴史・古典ものという自分の強みを切り開いていきました。

(1)描きたいものが描けるまで諦めない
(2)30代で切り開いた自分の強み ←今回はココ
(3)画業50年を超え、なお変わらぬ情熱

大和和紀
漫画家
大和和紀 1948年、北海道生まれ。短大在学中の66年に『週刊少女フレンド』(講談社)掲載の『どろぼう天使』でデビュー。77年に『はいからさんが通る』で講談社漫画賞を受賞。『源氏物語』を題材にした『あさきゆめみし』は大ベストセラーに。その他、『ヨコハマ物語』『N.Y.小町』『イシュタルの娘~小野於通伝~』など著書多数。2016年に画業50周年を迎え、『大和和紀画業50周年記念画集~彩~』(講談社)を発売。

 漫画家デビューして4~5年たつと、早くもベテランと呼ばれるようになりました。私より上の世代の漫画家が少なかったからでしょう。

 私は主に中・高校生向けの漫画雑誌で恋愛物を描いていましたが、自分が20代も半ばになると、10代の恋愛を描くことが難しくなっていきました。若者言葉には疎くなるし、制服を描くことにも少し飽きてしまって。

 大正時代を舞台に物語を描きたいと思い立ったのはその頃です。大正ロマンと呼ばれるように独特の雰囲気がある大正期には、どこか異国のような印象がありました。袴(はかま)に編み上げブーツ姿の女学生が、激動の時代を生き抜くラブコメディーを描きたい──。そうして生まれたのが、ヒロインの紅緒と軍人である伊集院少尉との恋を描く『はいからさんが通る』でした。

破壊的キャラの主人公「はいからさん」が大ヒット

 当時、「歴史漫画はヒットしない」が定説でしたが、池田理代子さんの『ベルサイユのばら』ブームも手伝って企画が通り、週刊誌で連載を始めることに。初めて描きたいものが描ける喜びと充実感でいっぱいでしたが、読者の人気投票の結果はいつもいまひとつ。自分では面白いと思うんだけど……と友人に漏らすと、「ヒロインの恋愛関係をはっきりさせないからよ。一人の男に決めるべき」と言われました。友人のアドバイス通りにするとどっと人気が出て、1年の予定が2年続きました。

 主人公の紅緒はじゃじゃ馬で、ケンカ好きで、大酒飲みで、家事はからっきしダメ。そんな設定にしたのは、私が女らしくて優等生という王道のヒロイン像に飽きていたからです。破壊的なキャラクターなのに、なぜかモテる。新鮮な人物像も、多くの方に受け入れられた理由かもしれません。ファンレターは本当に力になりましたし、バレンタインデーに、少尉宛てのチョコレートが大量に届いたときは驚きました。ギャグ要素もあったからか、男性読者が多かったこともうれしかったですね。

 休みなしの日々、気分転換はもっぱら読書を通じた“現実逃避”。気持ちがつらくなると、タモリさんがパーソナリティーを務めていらした『オールナイトニッポン』を聴きました。これが最高に面白かった! あの手この手でやる気を高めないとやっていられないくらい、週刊誌連載は大変でしたが、自分が面白いと思うものを他人も面白がってくれるなんて、こんなに幸せなことはありません。後に、『はいからさんが通る』をきっかけに、卒業式に袴を着る人が増えたと聞いたときは感激しました。