人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、ARIA読者にお届けします。世代・トレンド評論家、マーケティングライターの牛窪恵さんの最終回。

(1)TVマンの父に振り回され高校を中退
(2)ストーカーに仕事まで奪われる
(3)経営者としても妻としても失格だった ←今回はココ


牛窪恵
世代・トレンド評論家、マーケティングライター
牛窪恵 1968年東京都生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、大手出版社勤務、フリーライターを経て、2001年、マーケティングを中心に行うインフィニティを設立。多くのトレンド、マーケティング関連の著書を通じ、「おひとりさま」「草食系(男子)」などの流行語を広めた。19年に立教大学大学院(MBA)博士課程前期を修了。20年から同大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。テレビ番組のコメンテーターや、財務省財政制度等審議会の専門委員なども務める。

 「今度、話を聞いてもらえませんか」。ある女性社員からそう声を掛けられたのは、起業した会社が急拡大していた頃のこと。当時の私は、“おひとりさま”の著書に続き、『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版)を上梓(じょうし)し、マーケティング業務やテレビ出演、講演などで、週の大半は外に出ていました。相談してきた彼女には「時間を取るね」と言いながら、先送り。やがて、彼女はうつ病に近い症状を発症し、会社に出て来られなくなりました。

 ショックでした。彼女がSOSを出していたのに、応えられなかった。働きたくても働けなかった母の存在や、ストーカー被害で仕事を奪われたことなどから、女性が働きやすい職場を目指していたにもかかわらず、目の前の仕事をこなすのに必死で、社員をケアできなかった。経営者失格だと思いました。

 同じ頃、家庭でも問題が。それは、「子どもをどうするか」です。私はひとりっ子で、自分よりはるかに若く、か弱い存在をかわいがる感覚が、ピンと来なかった。「産みたい」より「育てたい」に実感が持てませんでした。一方で、40歳を目前に、身体的な出産のタイムリミットが迫るなか、「女性として、出産を経験してみたい」との思いが強くなりました。夫に「子ども、欲しいよね?」と聞くと、そのたびに「僕より、君は本当に欲しいの?」と聞き返されてしまう。実は当時、熟年離婚した母を社員に迎えた直後でもあり、正直言って、会社の仕事を減らすわけにはいかなかった。彼は私の本音を、見抜いていたのでしょう。

 何度もケンカになり、ある日、私が「だって出産すれば、物書きとして仕事の幅も広がるだろうし」と言うと、温和な夫がキレたのです。「それは君の単なるエゴだ。そんな思いでいるなら、僕は子作りに協力しない」。