人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、ARIA読者にお届けします。脚本家・中園ミホさんの最終回です。脚本家としてのキャリアを重ね、現場で取材していくうちに、自分が書きたいテーマ、書くべきことが見つかっていきます。

(1)脚本家の前は、占いと競馬で生活
(2)恋に落ちて脚本家を目指す
(3)人生はバタ足。必死に泳いでいく ←今回はココ


中園ミホ
脚本家
中園ミホ 東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務、コピーライター、占師の職業を経て、1988年に脚本家としてデビュー。執筆作に『For you』『Age,35 恋しくて』『やまとなでしこ』『anego』『花子とアン』『西郷どん』『七人の秘書』など。2007年に『ハケンの品格』が放送文化基金賞と橋田賞を、13年には『はつ恋』『Doctor-X 外科医・大門未知子』で向田邦子賞と橋田賞を受賞。19年より、公式占いサイト「中園ミホ 解禁 女の絶対運命」を開始。

 恋愛しない人が増えているそうですが、私は恋愛はしないよりしたほうが断然いいと思います。恋愛は、人間の意外な一面や今まで知らなかった価値観を発見でき、人生の視界を広げてくれる一番手っ取り早い方法。私も、会議室で何時間も話を聞くより、一度デートしたほうが、よほどドラマの題材を見つけられます(笑)。

 新人の頃は締め切りがタイトな仕事が多く、占師時代に会った人たちをモデルにドラマを書いていましたが、才能がない私は今も人にたくさん会って取材しないと脚本が書けません。

 今でこそ「取材力の中園」と言っていただけるようになりましたが、本格的に取材をして書くようになったのは、41歳のときに手がけたドラマ『やまとなでしこ』から。登場人物に近い仕事や生活環境の方に片っ端から話を聞きましたが、キャビンアテンダント(CA)の合コンシーンを書きたくて、CAの女性とテレビ局の男性に合コンをしてもらったときは面白かった。男性がテーブルに車のキーを置いた瞬間、女性全員の視線がキーに集中して、どこのメーカーの車に乗っているのかをチェックしていたり!

 林真理子さん原作のドラマ『anego』の脚本を書いたときは、ヒロインと同じ商社勤務の女性に取材をしました。正社員の彼女たちは今思えば恵まれた職場環境で、有給休暇も多く、年2回はゴルフをしに海外へ行くと言います。でも、そんな彼女たちの口から出た言葉に驚きました。「今は職場の花も男性社員のお嫁さん候補も、派遣の女性なんですよ」と言うのです。

 そうか、時代は派遣社員なのか。というわけで、今度は派遣社員の女性に取材しました。でも、正社員の女性たちが明るくのびのびと働いていて、上司や男性社員の悪口をあっけらかんと語るのに比べて、派遣社員の女性たちは当たりさわりのないことしか言わない。「職場でつらいことは?」と聞くと、「とてもよくしてもらっています」と言う。何かが引っかかりました。