人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。因島で生まれ育った小説家の湊かなえさん。剣道に打ち込んだ高校時代、大学ではサイクリングに没頭。登山やダイビングに熱中し、勉学に励み、アパレル会社の内定を獲得。楽しい学生生活は終盤を迎えていました。
(1)旅とアウトドアに熱中した学生時代 ←今回はココ
(2)トンガに赴任。31歳、執筆に挑む
(3)産み出した作品に後悔はない
瀬戸内海の因島(広島県尾道市)で生まれ育った私の中学時代は、ひと言で表すと「地味」でした。勉強でも運動でも秀でたものはなく、平凡の代表選手権があれば、かなり上位に食い込めるのではないか、などと思っていました。趣味は読書。赤川次郎さんの小説に夢中になり、お小遣いでは追いつかず、担任だった国語の先生に頼んで図書室に赤川さんの本を入れてもらったことが、最大の功績かもしれません。
それでも、2年生の後半、隣の席になったクラスで一番頭のいい男の子に数学の問題を教えてもらったことがきっかけで、彼ともっと話がしたい、でも、簡単な問題まで聞いてバカだとは思われたくない、と数学の問題を解きまくっていたら、彼を追い越してクラスで1番になってしまいました。自分はごくまれに、ものすごい集中力を発揮することができる、と最初に気付いたのはこのときかもしれません。
恋愛は苦手ですが、勉強は少し得意になりました。そして、3年生で仲良くなった子と島外の高校を目指すのですが、経済的な理由から親の同意を得ることができず。友人も同様で、将来は自立できる職業に就いて、やりたいこと、欲しいものは、すべて自分の力で手に入れられるようにがんばろう、と海辺の堤防の陰で誓い合ったのです。