人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。五輪メダリストで、メンタルトレーナーとして活躍する田中ウルヴェ京さんの最終回です。米国の大学院で学び、メンタルトレーナーになりたいと帰国しても居場所のなかった30代。軌道に乗っていた事業で「失敗」に直面した40代。度重なる逆境を通じて「常に学び、感謝することが自らの成長につながる」と確信します。
(1)「五輪など無理」の声に奮起
(2)銅メダル後3年、あの人は今
(3)逆境で気づいた幸せの法則 ←今回はココ
五輪メダリスト・メンタルトレーニング指導士
「カッコ悪い本当の自分を認めたくない」
この言葉ほど、自分の20代を体現するものはないだろう。しかし、当時は自分をそれとは真逆な人間だと「信じ込んでいた」。
そもそも人間のカッコよさは、「見える肩書」で差がつくと思っていた。自分は、競技引退後、日本代表チームのコーチになり、五輪になればテレビの解説者、さらに新たに米国の大学院で修士号を取得したのだから、自分ほどカッコいい人間はいないのだと信じたかった。しかし同時にたまに頭によぎる「いくら肩書という鎧(よろい)をまとっても、本当の自分はもろく弱い」ことを認めるのが怖かった。これだけの肩書を手にしていながら、なぜこんなに将来が不安なのか、なぜ人に優しくできないのか、ちょっとイヤなことがあると、なぜ他人や環境のせいにするイヤな自分なのか、が分からなかった。悪口を言ったり、幸せな人をねたんだりする自分は、ほとほと嫌いだった。
大学院で学んだ心理学が自分を救うきっかけになったのは確かだ。しかし、学んだことが実践を通して自分の中に落とし込まれるまでには、さらに歳月が必要だった。