人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。『ミュージック・ライフ』の編集長を務め、「最もクイーンに近い編集者」として名をはせた音楽評論家の東郷かおる子さん。幼い頃から洋楽に親しみ、ビートルズで開眼。ロックに憧れてついに念願の『ミュージック・ライフ』の編集部員となります。ロックの黄金期、大物アーティストの来日が増加。そんなある日、出合ったテスト盤から流れてきたのがクイーンでした。
(1)クイーンに最も近い編集者、ロックに憧れた駆け出しの頃 ←今回はココ
(2)日本で火が付いたクイーン人気、世界へ
(3)ロックとともに駆け抜けた日々、ツキを呼んだミーハー魂
「よく描いているな」。2018年の秋、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の試写を見終わった後、素直にそう感じました。主人公のフレディ・マーキュリーがボーカルを務めたクイーンは、私が洋楽情報誌『ミュージック・ライフ』(以下、ML)の編集者として最も多くインタビューし、最も大変で、最も長く付き合ったバンド。ハイライトの「ライヴエイド」のシーンでは、あの場所に私もいたんだなと懐かしく思い出しました。その後、この映画はその年の洋画興行成績第1位となり、若い世代に新たなファンが増えるという大フィーバーに。クイーンに最も近かった編集者として、私への取材も殺到するなんて予想もしなかったことです。
クイーンが活躍した1970年代、洋楽といえばロックでした。私は青春時代とともに黄金期が始まったロックを追い続けてきました。私の洋楽好きの原点は家庭環境にあります。まだ敗戦国の景色が色濃かった幼少時、父は米軍関係の工場で通訳などをしていました。
我が家にはアメリカ軍将校やその家族が遊びに来ていたし、幼稚園には日米ハーフの友達もいたので、アメリカは身近に感じていました。
少女時代に夢中だったのがアメリカのホームドラマ。緑の芝生の庭にむく犬がいて、冷蔵庫から大きな牛乳瓶を取り出してがぶ飲みする生活がすてきに見えたものです。洋画好きの母の影響もあり、将来の夢は母が愛読していた映画雑誌『映画の友』の編集部に入ることでした。