人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。世界的バレリーナとして活躍した吉田都さん。最終回は、新国立劇場の舞踊芸術監督として挑戦する日々を語ります。より高度な舞台芸術の構築から、踊り手を巡る環境の改善まで、コロナ禍という思わぬ逆風の中で新たな使命に情熱を燃やしています。

(1)踊る喜びと苦しみを切り抜けて
(2)生き残るプロは「自己満足しない人」
(3)闘いの日々から新たなステージへ
(4)尽きぬ情熱、新しい目標へ1つずつ ←今回はココ


吉田都
新国立劇場芸術監督
吉田都 1965年東京都生まれ。83年に渡英。英国のバーミンガムロイヤルバレエ団のプリンシパル(最高位)を経て、95年に世界3大バレエ団のひとつ、英国ロイヤルバレエ団にプリンシパルとして移籍。2004年ユネスコ平和芸術家に任命される。07年、紫綬褒章を受章、英国で大英帝国勲章(OBE)を受勲。10年からフリーランスのバレエダンサーとして、舞台活動と後進の育成に力を注ぐ。19年8月「Last Dance ―ラストダンス―」公演を最後に引退。20年9月、新国立劇場舞踊芸術監督に就任。2月20日より、新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」を上演予定。

 第3回の「妹たちへ」でお話ししたのが2011年。この10年の間に世界でも、私の中でも本当にいろいろな出来事がありました。

 2011年の3月には、東日本大震災が起こりました。すでに2010年4月に英国ロイヤルバレエ団は退団していましたが、そのときは英国ダンサーとの公演があり、バーミンガムに滞在していました。何もできない自分に歯がゆく思いながら、「とにかく今の自分にできることを」とロイヤル・オペラ・ハウスに相談し、東日本大震災への支援金を集めるチャリティー公演を行いました。思いたってから公演まで3日間しかなかったのですが、誰ひとり嫌な顔をせず、演目の決定、振付家への許可、音楽、照明、チケット販売……と準備を手伝ってくれ、チケットは即日完売となりました。人の気持ちの温かさ、英国のチャリティー精神の高さが心に染みた数日間でした。

 ロイヤルバレエ団を卒業してからは、フリーランスのダンサーとして舞台に立ちながら、後進の育成に関わる機会が増えました。舞台への出演依頼もたくさんいただきましたが、2012年には膝の状態がかなり悪化。その後、素晴らしいトレーナーとの出会いで膝の状態は回復したものの、年齢を重ねるにつれ、「自分はいつまで舞台に立てるのだろうか」と考えるようになりました。

年齢を重ねるにつれて「いつまで舞台に立てるのだろうか」と考えるようになった
年齢を重ねるにつれて「いつまで舞台に立てるのだろうか」と考えるようになった