自然の状態では出生時男女比は1.05:1となります。OECD諸国では1.053:1とほぼ自然な数値となっています。ところが、東アジアに目を向けますと、中国は男児 1.15:女児1(2017年)、ベトナム同 1.097:1(2017年)、タイ同 1.062:1(2017年)となっており、東アジア・太平洋地域では男児のほうが約5%不自然に多くなっています。男性が多く、女性の数が少ない状態では、より速いペースで人口動態に影響が出ます。

 また、現在は先進国での少子高齢化が話題になっていますが、人口動態をつぶさに見ますと、タイやベトナムのような新興国でも少子高齢化が進行する見通しです。日本に比べるとタイムラグはあるものの、例えばベトナムではあと10~20年後には高齢化が急速に進みます。

 人口動態のゆがみに対処するためには、女性の社会的地位の低さも改善していかなければなりません。IMFの全189加盟国のうち、9割の国で依然、女性の遺産相続や就労に制限があるなど、法的な差別があります。(※3)

来なかった「日本の第3次ベビーブーム」 楽観論の末に

羽生「政策が現状のままだと、(直近の経済成長率が40年間続いた場合と比べて)40年後には日本の実質GDPは25%低下」。このインパクトがある数字を、ラガルド専務理事自身が発言してくれたことは非常に大きかったと思います。しかし、労働市場におけるさまざまな男女格差(働き方改革を含む)について、喫緊の経済問題であるにもかかわらず、いま一つ真剣に取り合わない経営者の姿も見てきました。女性の労働力に頼らなくとも、男性中心でやっていけると思ったのでしょうが、そうはなりませんでした。男性にとって、「男女平等」という言葉へのアレルギーは予想以上に大きく、残念です。

見明 楽観論の帰結が、現在の労働力不足です。人口動態への楽観的な見方の背景には、「第3次ベビーブームが来るだろう」という予測がまだあったのではないでしょうか。昨年が第2次ベビーブーマー(第2次ベビーブーム世代、1971~74年生まれ)の出産適齢期の最後の年でしたが、第3次ベビーブームは来ませんでした。一方で、待機児童数はやっと2万人を割りましたが、まだ多い状態です。働きたいのに働けないお母さんをサポートし、ポテンシャルを十分に生かした仕事に就けるようにしていかなければなりません。

 日本の公的債務残高の対GDP比率は、第二次世界大戦末期よりも高い水準、237%に達しており、財政改善が急務となっています。2019年10月の消費増税を乗り切った後、どのような形で財政再建策を打つのか。限られた財源の中から、本当に支援が必要な世代や所得層に的を絞ったサポートを届けなければならないでしょう。

 中期的な財政再建なくしては、日本は減り続けていく子どもたちに借金を押し付け続けることになります。(※4)