ラガルド専務理事就任後、経済成長の「質」も注視

国際通貨基金 アジア太平洋地域事務所 エコノミスト 見明奈央子氏
国際通貨基金 アジア太平洋地域事務所 エコノミスト 見明奈央子氏

見明 これには先立つ動きがありまして、2012年に『女性は日本を救えるか』(Chad Steinberg ; Masato Nakane)(※1)という刺激的なタイトルのワーキングペーパーが出ています。女性の労働参加率を(女性の労働参加率が低い日本とイタリアを除いた)G7平均水準に引き上げることによって、日本の一人当たりGDPが4%増加し、潜在成長率が0.2%上昇する可能性を指摘しました。

 また、女性の労働参加率上昇と出生率上昇を両立できることを立証したワーキングペーパーもあります。その中で、日本と韓国で広く行われている現金給付型の育児支援は女性の正規雇用比率を低下させていることを指摘していて、学童期(6から11歳)の育児サポートの強化が必要<と提唱しています。(※2)

 IMFでは2012年以降特に、ジェンダー、所得格差、気候変動などを「ニューコアイシュー」(新重要課題)と捉えて重視しています。きっかけとなったのが、2011年のラガルドの専務理事就任です。

羽生 労働市場におけるジェンダー不平等問題を、ダイバーシティーやインクルージョンだけの話に押しやらず、経済のど真ん中の課題と捉えるということですね。

見明 はい。IMFは従来、経済成長のスピードや国際収支そのものに目を向けてきました。しかし、世界金融危機を経て、より持続的な成長を目指すためには、「経済成長の質」も大切であるという意識が IMF の中でも芽生えて来ました。そこで、ジェンダーや所得格差がニューコアイシューとして着目されたという経緯です。

韓国も日本と同様に少子高齢化が進み経済成長に困難

羽生 少子高齢化のマイナス影響が日本と同程度の国はあるのでしょうか?

見明 各国別のマイナスの影響については、具体的な推計をまだ出しておりません。しかし、アジアでは韓国やシンガポールのような高所得国が同じように少子高齢化でマイナス影響がみられます。そして、中国・タイ・ベトナムなど中低所得国でも少子高齢化が進展することが判明しています。合計特殊出生率については、特に韓国の低下が著しく、最近は1.0を割り込みました。

羽生 日本、韓国、シンガポール共通の課題なのですね。日本の場合、政策が現状のままだと40年後には日本の実質GDPは25%低下し、改革の実行で実質GDPを15%伸ばせるという予測でした。

見明 40年間で25%、15%というと非常にインパクトがありますが、身近に感じていただくため、年率で見たらどうなるかという再計算を行いました。仮に2012~2017年の成長率が続いた場合、経済成長率は1年あたり1.3%と比較的高い水準となります。ここに人口動態の影響を加味すると成長率は年率0.6%まで低下しますが、女性の活躍推進などの構造改革を行えば年率1.0%まで上昇します。

羽生 なるほど、本来日本の持っている経済成長率は、年1.3%と高いはずなのに、人口減少により0.7%の下落圧力がかかり0.6%にしかならないと。構造改革で1.0%に押し上げられるというストーリーはまだ希望がありますね。