「マンションの1階を店舗にしたのは、住民の方にふらりと立ち寄ってほしいから。ひとりでも自分の家の台所のように使っていただきたいですね」と話すのは料理長の吉田伸介さん。イタリアンやカフェでの料理長経験から、ここにしかない料理を生み出します。

 スタンドバイユー、トゥーユーを店のテーマにし、店名を「To.」にしたというこの店、町のコミュニケーションスペースになるのが目標なのだとか。オシャレで京都的、「こんな店が近くにあったら」と誰もが思う新店です。

店長で料理人の吉田伸介さん。福井や青森のレストランで腕を磨いた後、京都の名カフェ「ハロー」で7年半料理長を務めました。「まずは半径500メートルに暮らす人をおいしいもので幸せにしたい」と言います
店長で料理人の吉田伸介さん。福井や青森のレストランで腕を磨いた後、京都の名カフェ「ハロー」で7年半料理長を務めました。「まずは半径500メートルに暮らす人をおいしいもので幸せにしたい」と言います
カウンター8席、テーブル4席の店内。友人宅のアイランドキッチンで、料理を作ってもらっているような雰囲気が心地いい。「今日のおつまみ何?」と聞きたくなります
カウンター8席、テーブル4席の店内。友人宅のアイランドキッチンで、料理を作ってもらっているような雰囲気が心地いい。「今日のおつまみ何?」と聞きたくなります

イタリアンとおでんの出合いも京都だからこそ?

 2016年に開業したこの店は、おだしの専門店「うね乃(京都市南区)」の当主が、「おだしのおいしさをもっと知ってほしい」とつくったおでん店。上質のカツオや昆布などの合わせ節を使っただしは、そのままゴクゴク飲みたくなるようなうまみと淡麗さを兼ね備えています。丹精込めただしで丁寧に下ごしらえした具材を煮込むのだから、おいしくないわけがありません。

太鼓判リスト2
麩屋町うね乃
住所/京都市中京区麸屋町通押小路上ル尾張町225 第二ふや町ビル103
電話/075-213-8080
営/17時30分~23時(LO 22時) 休/火曜

 だしをたっぷりと含んだ大根は、すうっと箸が通るけれど食感もちゃんと残っていてみずみずしい。ふんわりとして優しい味のお豆腐やしっかりと歯応えのある大きなタコも、だしとの相性抜群で、お酒がどんどん進みます。

大根(500円)とタコ(1000円)~をひと盛りに。一度にたくさん注文せず、2品ほどずつ頼んでゆっくり味わってほしい。だしもしっかり飲み干して!
大根(500円)とタコ(1000円)~をひと盛りに。一度にたくさん注文せず、2品ほどずつ頼んでゆっくり味わってほしい。だしもしっかり飲み干して!

 ところで、おでんというと日本酒のイメージですが、ここではワインもお薦めです。というのも、料理長の山元敏彦さんは、元イタリアンのシェフ。実は、私が「サンゲンさん」こと山元さんに初めてお会いしたのは、彼がオーナーシェフを務める木屋町のイタリアン。本格派のイタリア料理をアラカルトで味わえる大人っぽい人気店だったので、サンゲンさんから「おでん店の料理人に挑戦する」と聞いたときは心底驚きました。180度の方向転換は、いろいろと苦労もあるのではと思ったものです。

 ところが、そんな心配はどうやら不要だったようで……。今では和食の料理人顔負けのだしをひいたり、きれいなだし巻きを巻いたり。おでんのことばかり考える料理長になっています。逆に、サンゲンさんだから発想できるカチョカバロチーズやポテサラ、フルーツを射込んだ巾着などがおでん種に登場して、「さすが」と思わされることもしばしばです。イタリアンとおでん、こんな出合いも京都だからこそでしょうか。

だし巻(880円)。注文を受けてから巻いてくれるだし巻き。大きいのでひとりなら半分の大きさで、と相談してください
だし巻(880円)。注文を受けてから巻いてくれるだし巻き。大きいのでひとりなら半分の大きさで、と相談してください
岡山・吉田牧場のカチョカバロチーズをフライパンで焼き、おでんのだしをかけて(660円)。香ばしいチーズにだしがじゅわっじゅわっと染みていく
岡山・吉田牧場のカチョカバロチーズをフライパンで焼き、おでんのだしをかけて(660円)。香ばしいチーズにだしがじゅわっじゅわっと染みていく

 牛すじと豆腐を一緒に注文して肉豆腐にするなど、自分の好みで具材を組み合わせて食べられるのも楽しみの1つ。ひとり客も多い上に、サンゲンさんやスタッフがきめ細かく目配りしてくれるから、気兼ねなくじっくりひとり飲みを楽しめます。たっぷり食べたいときは友人を誘って。寒いときだけでなく、1年を通して足を向けたくなる店なのです。

すっきりと美しいL字型のカウンターの他、8人程度まで入れる個室もある。料理長の山元敏彦さんは、元イタリアンのシェフ。通称「サンゲンさん」
すっきりと美しいL字型のカウンターの他、8人程度まで入れる個室もある。料理長の山元敏彦さんは、元イタリアンのシェフ。通称「サンゲンさん」
すっきりと美しいL字型のカウンターの他、8人程度まで入れる個室もある。料理長の山元敏彦さんは、元イタリアンのシェフ。通称「サンゲンさん」
レトロなビルの1階、オフィスかと思うようなドアを開けると、おだしの香りが広がります
レトロなビルの1階、オフィスかと思うようなドアを開けると、おだしの香りが広がります
レトロなビルの1階、オフィスかと思うようなドアを開けると、おだしの香りが広がります