「マンションの1階を店舗にしたのは、住民の方にふらりと立ち寄ってほしいから。ひとりでも自分の家の台所のように使っていただきたいですね」と話すのは料理長の吉田伸介さん。イタリアンやカフェでの料理長経験から、ここにしかない料理を生み出します。
スタンドバイユー、トゥーユーを店のテーマにし、店名を「To.」にしたというこの店、町のコミュニケーションスペースになるのが目標なのだとか。オシャレで京都的、「こんな店が近くにあったら」と誰もが思う新店です。
イタリアンとおでんの出合いも京都だからこそ?
2016年に開業したこの店は、おだしの専門店「うね乃(京都市南区)」の当主が、「おだしのおいしさをもっと知ってほしい」とつくったおでん店。上質のカツオや昆布などの合わせ節を使っただしは、そのままゴクゴク飲みたくなるようなうまみと淡麗さを兼ね備えています。丹精込めただしで丁寧に下ごしらえした具材を煮込むのだから、おいしくないわけがありません。
住所/京都市中京区麸屋町通押小路上ル尾張町225 第二ふや町ビル103
電話/075-213-8080
営/17時30分~23時(LO 22時) 休/火曜
だしをたっぷりと含んだ大根は、すうっと箸が通るけれど食感もちゃんと残っていてみずみずしい。ふんわりとして優しい味のお豆腐やしっかりと歯応えのある大きなタコも、だしとの相性抜群で、お酒がどんどん進みます。
ところで、おでんというと日本酒のイメージですが、ここではワインもお薦めです。というのも、料理長の山元敏彦さんは、元イタリアンのシェフ。実は、私が「サンゲンさん」こと山元さんに初めてお会いしたのは、彼がオーナーシェフを務める木屋町のイタリアン。本格派のイタリア料理をアラカルトで味わえる大人っぽい人気店だったので、サンゲンさんから「おでん店の料理人に挑戦する」と聞いたときは心底驚きました。180度の方向転換は、いろいろと苦労もあるのではと思ったものです。
ところが、そんな心配はどうやら不要だったようで……。今では和食の料理人顔負けのだしをひいたり、きれいなだし巻きを巻いたり。おでんのことばかり考える料理長になっています。逆に、サンゲンさんだから発想できるカチョカバロチーズやポテサラ、フルーツを射込んだ巾着などがおでん種に登場して、「さすが」と思わされることもしばしばです。イタリアンとおでん、こんな出合いも京都だからこそでしょうか。
牛すじと豆腐を一緒に注文して肉豆腐にするなど、自分の好みで具材を組み合わせて食べられるのも楽しみの1つ。ひとり客も多い上に、サンゲンさんやスタッフがきめ細かく目配りしてくれるから、気兼ねなくじっくりひとり飲みを楽しめます。たっぷり食べたいときは友人を誘って。寒いときだけでなく、1年を通して足を向けたくなる店なのです。