社会の構造が複雑になり、人々の価値観が多様化する中で、企業経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。そうした中で注目を集めているのが「デザイン経営」です。企業の競争力や価値の創出、課題の解決に貢献するデザイン経営、デザイン思考とはどういったものなのでしょうか。デザインの力を生かした多種多様なプロジェクトを手掛けるロフトワーク代表取締役の林千晶さんが、基本から解説します。

(1) 成熟市場を生き抜く思考の転換 「デザイン経営」とは
(2) デザイン経営の謎 無関係に見える事業をなぜ展開する?
(3) ユーザーの無意識の「あったらいいな」見つける視点を ←今回はココ

 デザイン経営の特徴である「ユーザー中心」の考え方では、ユーザーのインサイト(無意識の本音や、行動に結びつく動機)を見つけることが必要になります。生活や価値観を詳しく見て、「なぜこういう行動しているのだろうか、どんな商品やサービスがあったら、もっと喜ぶだろうか」を考える。これはそもそも、デザイナーが物事をとらえるプロセスで、それをデザイナー以外の人も実践しましょうということが、デザイン思考なんですね。

 デザイン経営では、初めに経営陣とデザイナーが、「わが社としてあるべきデザイン」を考えて決めるわけですが、それを具体的な商品やサービスに落とし込み、ユーザーに届けるまでには、技術、事業企画、営業販売など、さまざまな職種の人が関わります。これからはどんな仕事をする人にも、デザイン思考、つまり「ユーザーのインサイトを見つける」という視点が求められているのです。

高齢者の生活から見えてくるインサイト

 インサイトをどのように見つけていくかということの例を一つ紹介します。私は高齢者についてのリサーチを行っているのですが、そこでは、「あなたは1日、どういう暮らしをしているんですか?」と尋ねます。そうすると、大企業の重要な役職まで出世したような男性が、家にずっといると妻に嫌がられるので、2時間かけて散歩をしながら図書館に行く。そこで、何か試験を受けるわけでも、教える相手がいるわけでもないけれど、経営学の本を読んで、また2時間くらいかけて家に帰り、ご飯を食べて1日を終える。そういった生活をしていることが分かってきます。

 ここからどんなインサイトが見えてくるか。私は、「60代、70代の人に、もう一度働く市場が作れないかな」と思っています。

「これからはどんな仕事をする人にも、ユーザーのインサイトを見つける視点が求められると思います」
「これからはどんな仕事をする人にも、ユーザーのインサイトを見つける視点が求められると思います」