社会の構造が複雑になり、人々の価値観が多様化する中で、企業経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。そうした中で注目を集めているのが「デザイン経営」です。企業の競争力や価値の創出、課題の解決に貢献するデザイン経営、デザイン思考とはどういったものなのでしょうか。デザインの力を生かした多種多様なプロジェクトを手掛けるロフトワーク代表取締役の林千晶さんが、基本から解説します。

(1)成熟市場を生き抜く思考の転換 「デザイン経営」とは
(2)デザイン経営の謎 無関係に見える事業をなぜ展開する? ←今回はココ
(3)ユーザーの無意識の「あったらいいな」 見つける視点を

 消費者の声を中心に商品やサービスを開発する時代から、ユーザーの生活や価値観をよく見て、「こういうものがあったら世の中の人はもっと喜ぶのではないか」「私たちはこういう理念のために存在している」という企業としての意思が出発点になる時代へ。成長市場から成熟市場へと変化する中で、これからは経営にデザインの発想を取り入れていくことが求められると前回お話ししました。

 デザイン経営を行っている会社の特徴の1つに、「ビジョンを明文化している」ということがあります。例えば、アウトドアブランドのスノーピークは、「人生に、野遊びを。」というコーポレートメッセージを発信しています。

スノーピークが「アウトドア用品メーカー」ではない訳

 スノーピークはアウトドア用品の製造や販売を行っていますが、「アウトドア用品メーカー」ではありません。新潟県三条市の本社は、キャンプ場を併設した5万坪の敷地でオフィスと店舗、過去には工場とアフターサービスが⼀体となった経営も展開していますし、グランピング、地方創生などの事業も手掛けています。2019年には「キャンピングオフィス」というサービスがグッドデザイン賞の「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれました。キャンピングオフィスは、キャンプを研修やミーティングなど、ビジネスの場として活用することを提案するサービス。「キャンプは週末だけのもの」「アウトドア好きな人のもの」という固定概念を変えたんです。「テントを張って過ごすアウトドア空間は、平日にオフィスとして使っても構わないんですよ。だって、そのほうがみんな笑顔になるでしょう?」と。

アウトドア空間をビジネスの場として活用することを提案する「キャンピングオフィス」(写真提供/スノーピーク)
アウトドア空間をビジネスの場として活用することを提案する「キャンピングオフィス」(写真提供/スノーピーク)

 2020年3月に社長に就任した山井梨沙さんは創業家の3代目で、直近までCDO(チーフ・ディベロップメント・オフィサー)として企画開発全体の責任者を務めていました。山井さんはアパレル事業も立ち上げましたが、財務諸表として市場価値が高いアパレルに参入するということではないんですよね。街でも自然の中でも着ていて心地よいものを目指したという商品は、「人間性の回復」を掲げているスノーピークらしいスタイルです。

「スノーピークの『キャンピングオフィス』は、『人生に、野遊びを。』というコーポレートメッセージに通じるサービスです」
「スノーピークの『キャンピングオフィス』は、『人生に、野遊びを。』というコーポレートメッセージに通じるサービスです」