ひとり泊まりを歓迎する宿が増えています。旅慣れた人はもちろん、旅行といえば家族といつも一緒だったARIA世代も時にはひとり旅を楽しみませんか。旅の達人のお勧め宿を紹介するこの連載の第4回は宿坊研究会 堀内克彦さんに聞く、ビギナーも楽しめる宿です。

―― 宿坊といえば、ひとり旅の定番というイメージでしたが、最近はグループで1棟を貸し切るとか、1泊30万円~100万円の宿坊もあると聞き、驚きました。

堀内克彦さん(以下、敬称略) 宿坊にはもともと信仰団体が宿泊する大部屋に相部屋で寝泊まりするという歴史があります。ものすごく大きな部屋に、私もぽつんとひとりということがありました。今はほとんど改装され、鍵付きの個室が増えています。昔より女性のおひとりさまが安心して快適に過ごせるようになっていると思います。ここ数年は特にインバウンド需要が高まり、宿坊を増設する寺や神社が増えているんです。

―― 「プチ出家」と女性が宿坊に泊まるブームが一時期ありましたが。

堀内 いわゆるスピリチュアル系のブームやパワースポットブームはすでに一服感があります。今はむしろ、そうした流れを疑問に感じて、文化的にも精神的にももう1歩掘り下げたいという人に神社や寺がうまくはまっていると感じます。

―― ARIA読者の4割が管理職なのですが、「週末は宿坊でお籠もり」という人が意外と少なくないようです。写経や座禅体験者はもちろんですが、滝行経験者も、ちらほら。

堀内 写経も座禅も、目の前のことにじっくり集中し、気持ちを落ち着かせる行ですからね。特に管理職の方は意思決定に迫られる機会も多いでしょうから、日常の忙しさから自分を切り離し、ゆっくり過ごしたいという人が少なくないのかもしれませんね。滝行の場合は、どちらかといえば、新しいことに挑戦する人や、転換期を迎えた人が環境を変えるために「よし、やるぞ!」と気合を入れたい時に体験したがる傾向がある気がします。

―― なるほど。堀内さんは20年以上、日本全国の宿坊を泊まり歩いていますが、宿坊の一番の魅力は何ですか。

堀内 宿坊に泊まると普段は見られない寺や神社の表情が見られることです。観光だけだと、どうしても昼間の表情しか見られませんが、まだ誰も歩いていない早朝の寺を散歩したり、月明かりに照らされたお堂の表情を眺めたり。丸1日、宿坊で過ごして初めて気付くことも多いですよ。

―― 初めて宿坊に泊まる人にお勧めしたい宿坊体験を教えてください。

堀内 ざっくり挙げるなら、まずは行体験でしょう。写経、座禅、阿字観(阿字の仏さまと一体化する瞑想法)など宿泊客のために行われている体験メニュー以外にも、泊まることで朝のお勤めや作務(掃除など)を「なるほど、寺では毎日こういうことが行われているのだ」と知ることができます。

 精進料理の楽しみもあります。意外と知られていないのですが、精進料理には2つの種類があるんです。修行僧のための精進料理を追体験できるものと、お参りできてよかったねという意味合いのお祝いの精進料理です。祝いの席では肉や魚を使わずに、もどき料理で献立を華やかにみせることもあります。

 例えば「うなぎもどき」は山芋を団子のように練ってタレをつけて焼いて、骨に見立てたごぼうの千切りを入れるなど非常に手が込んでいます。

 それから普段は見られない仏像や仏画などの重要文化財を参拝者だけが拝める「アート体験」があります。また朝と夜の庭園の美しさなど、宿泊しないと見られない寺の表情という意味でのアート体験もありますね。

*次のページで堀内さんお勧めの宿坊3軒を紹介します。