実家にひとりでいるのが怖くなった

 怒濤(どとう)の2日間が過ぎると、誰もいない実家にいるのが怖くなった。

 父も母もいない一軒家。学生時代を過ごした部屋にいると、コーヒーが入ったよ、と父がひょっこり現れるような気がした。怖かったのは両親の不在ではない。誰かがどこかから入ってきたら私はひとたまりもない、ということだった。東京でマンションに住んでいるときには感じたことのない恐怖。闇が襲いかかってくるようだった。

 これから無人になる実家の防犯についても考えなくてはならない。家の名義も変えなくてはならない。父の年金を止めて母の遺族年金をもらう手続きをしなくてはならない。携帯電話をはじめ、契約していたであろうさまざまなサービスを止めなくてはならない。車を廃車しなくてはならない。保険はどうなっているんだろう。

 明日からやらなくてはならない膨大な事務作業のことを思うと、恐怖に加えて気が遠くなった。

3人だった家族が、近い将来には私だけになる

 そんな日々でもおなかはすくし、シャンプーやリンスも切れる。実家の近所にはイオンタウンがあり、田舎のどこにでもある風景が広がっている。夕暮れに買い物をしながら巨大なモールを歩いていると、じんわりとさびしさが胸に広がってきた。

 私はひとりっ子だ。閉経してしまったから、これから子どもを持つことはできない。3人いた家族がひとり欠けて、たぶん近い将来には私だけになる。我が家はこれで絶えてしまうのだ。これがその始まりなんだ。

 家族3人という状態がずっと続くとはもちろん思っていなかったけれど、実際に起こってみるまで、この底の抜けたような不安や恐怖や悲しさが襲ってくることは想像できなかった。

 この寄る辺ない気持ちをどうしていいか分からなかった。暗い、誰もいない実家で私はその夜、父が死んでから初めて号泣した。

文・写真/如月サラ