時間に追われる忙しい毎日も、仕事でうまくいかないことがあったときも、「あの人」のことを思えば頑張れる…。いくつになっても「好き」は私たちにポジティブなパワーを与えてくれます。何かと責任を負う場面が多くなった今のほうが、日常とは別の世界にいる誰かを愛で、夢中で追いかけるひとときがより尊さを増すのではないでしょうか。ARIA世代の女性たちが、大好きな「推し」への愛をたっぷりと語ります。

「大衆演劇なんて」と思っていたら…衝撃の面白さ

 「写真家の鬼海弘雄(きかいひろお)さんに、『あなたはそれだけ歌舞伎を見るなら大衆演劇を見ないとダメだ』と言われたんですが、正直なところ『大衆演劇なんて』という気持ちがあって、機会をずっと逸していました。そのうち、今度はまた別の人に『大衆演劇の一見好太郎(ひとみこうたろう)という役者がすごくいい』と言われて、いよいよ見に行ってみることに。そうしたらびっくりするほど面白かった! 3日後には佐野さんを誘っていました」

 こう話すのは、出版社に勤務するカルダモン康子さん。長年の演劇愛好家で、歌舞伎や文楽といった古典芸能は編集者として本を出すなど特に造詣が深い。そんなカルダモンさんが大衆演劇に衝撃を受けたのは5年前。友人であるフリーライターの佐野由佳さんも、「カルダモンさんに誘われてちょこちょこ見ていくうちに、だんだんのめりこんでいった」という。

大衆演劇をこよなく愛し、普及活動にいそしむ佐野由佳さん(写真左)とカルダモン康子さん。カルダモンさんは会社員のため顔出しNG&名前は社外活動の際に名乗っているものだそうです
大衆演劇をこよなく愛し、普及活動にいそしむ佐野由佳さん(写真左)とカルダモン康子さん。カルダモンさんは会社員のため顔出しNG&名前は社外活動の際に名乗っているものだそうです

 大衆演劇の魅力にどっぷりはまった二人は「大入企画」というユニットを結成。今年7月からウェブサイト「大衆演劇ナビ」を開設し、役者へのインタビューや観劇リポートを掲載している。職業柄、その内容は読み応えのあるプロの仕上がりだが、自主運営のため当然ながら取材や記事制作にかかる経費はすべて自腹。一体、大衆演劇の何が二人をここまでの行動に駆り立てるのか……。

 「私も最初は大衆演劇といえば梅沢富美男とか早乙女太一の名前を思い浮かべるくらいの認識しかなかったんです。ところが全国には100以上の劇団があり、家族を軸に構成していて、規模は数人から十数人ほど。活動エリアは大きく東と西に分かれていて、大衆演劇専門の劇場や健康ランドで公演を行っています」

 大衆演劇の概要について、佐野さんが解説してくれた。東京の劇場は3カ所で、浅草木馬館と十条の篠原演芸場が代表的な存在。カルダモンさんと佐野さんが初めて大衆演劇を見たのも、浅草木馬館で行われていた一見劇団の公演だった。