美弥るりかさん「いつも周りの人に愛情を持って接したい」

 大学時代から観劇はいつも一人だったが、SNSを通じて知り合ったファン仲間と交流を楽しむようにもなった。「美弥さんのファンは皆さんすごく優しくて、おしゃれでいい人。お話ししていてとても楽しいし、ライブで会うと、お菓子やお手紙をくれたりするんです。仕事関係でも子ども関係でもなく、この年になってできた趣味の友達ってこんなに素晴らしいものなんだとしみじみ思っています

 そして松井さんがうれしいことがもう一つ。それは6歳の娘も、宝塚と美弥さんのファンになったことだ。「私が家で繰り返し見ている『BADDY』を見せたら大好きになって。今では『ママ、おうちに帰ったら一緒にBADDY見よう~』って言ってくれるんです。宝塚の話ができる友達が身近にずっといなかったので、せりふや歌の話を娘と共有できるのは最高です! 夫や息子がいないときは、娘にせがまれてフィナーレのデュエットダンスをこっそり二人で再現しています(笑)」

Message from 美弥るりか
 宝塚を退団してからもうすぐ1年になります。何を演じ、歌い、踊り、どんな言葉を発してどんな写真を撮るのか、今はすべてが自由ですが、新しい挑戦に対しては意欲と怖さが常に混ざり合っています。納得するまでじっくり考えたい性格なので、「よし、やろう!」となるまで時間がかかる半面、いざやり始めると急に勢いよく突き進む人でもあります(笑)。自分はいろいろ変化するけれど、ファンの皆さんの気持ちを置いていかず、一緒に前へ進んでいきたい。そんな気持ちが最近強いです。

 宝塚時代は、与えられたキャラクターを演じる上でどう自分のオリジナリティーを出すかを一番大事にしていました。そのために、人物の人生設計はしっかり組み立てますね。その人になりきって日記を書いてみたり、1日休みがあったらその人として過ごしてみたり。この景色を見たらどんな感想を持つか、食事はどんなふうに取るのか。私はあまり器用ではないので、そうやって日常の何気ないシーンを深めることで初めて、舞台の上でその人物として何も考えずにせりふを言うことができるのではと思うんです。

 宝塚では学年が上がるほど、芝居上の役割だけでなく、組の中での責任も大きくなります。頼りない上級生になってしまうのは嫌だったので、自分のことをおろそかにせず、かつ周りのこともちゃんと見て、トラブルが起きたときも受け入れられる状態でいることを心掛けていました。舞台はいつ何が起きるか分からない生ものであり、見に来てくださる人がいて初めて成立する世界です。だからこそ、何を一番大事にすべきかを学んだのも宝塚でした。

 団体生活ではなくなった今もやっぱり思うのは、どんな仕事も対「人」だということ。何事にも真心を持って当たることが、きっと物事がうまく回ったり、トラブルから立ち直れたりする早道ではないでしょうか。

 私は見返りを求めず、人にどれだけ愛情をかけられたかで、結果は違ってくると思っています。皆さんもそんなふうに思えると、「仕事、大変だな」ではなく、そこに温かいものを感じられるようになるのではないでしょうか。いつも一緒にいる人たちと仕事ができるのも当たり前ではないと気付いて、チームワークもよりうまくいくと思います。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、まさに今、舞台と客席とで皆さんにお会いできることが当たり前ではなくなっています。公演の中止が決まったときは落ち込みましたが、これは何かをリセットするため、大切なものを見極めるために与えられた試練なんじゃないかなと最近思うようになったんです。

 ただ落ち込んだままでいるのか、それとも違う形でファンの皆さんとコミュニケーションを取れる方法を考えて挑戦したり、自分を磨いたりする機会にするのか。今の過ごし方次第で、また皆さんとお会いできたときに、そこにいる自分は全く違うものになっているはずですよね。自分のこと、周りのこと、自然のことや環境のこと。世界中の一人ひとりが何かを考え直してそれを行動に移したら、状況が収まったときにすてきなことが起きるかもしれない。私もそんな中の一人でありたいという思いでいます。

 7月には主演舞台『SHOW-ism IX』があります。毎回、出演者によって内容が少しずつ変化していくシリーズの第9弾。決まった枠組みがないからこそ面白いですし、演出を担当する小林香さんは、新しい試みを意欲的に取り入れる方です。皆さんに驚きを感じていただけるようなステージになればいいなと思っています。

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/花井智子