時間に追われる忙しい毎日も、仕事でうまくいかないことがあったときも、「あの人」のことを思えば頑張れる…。いくつになっても「好き」は私たちにポジティブなパワーを与えてくれます。何かと責任を負う場面が多くなった今のほうが、日常とは別の世界にいる誰かを愛で、夢中で追いかけるひとときがより尊さを増すのではないでしょうか。ARIA世代の女性たちが、大好きな「推し」への愛をたっぷりと語ります。

 「落語家さんは『今起こった出来事』をすぐ噺(はなし)に織り交ぜるので、寄席に行くと、その時、その場所でしか聴けないものに出合えます。めちゃくちゃ面白かったのが、台風が近づいているとき。『こんな日にわざわざ来るなんて、皆さん酔狂ですね』って落語家さんがちょっと悪ふざけ気味になるし、お客さんにも妙な一体感が生まれる。こういう楽しさは一度味わうとクセになります」

 新聞社で整理記者として働く塩田麻衣子さんは、大の落語好き。演芸専門誌「東京かわら版」を定期購読し、休日には寄席や落語会に足を運ぶ。

塩田麻衣子さんは人気落語家、春風亭一之輔さんの大ファン。友人や会社の同僚にも落語の魅力を積極的に「布教」している

出会いは震災から一週間後の夜

 塩田さんを落語愛に目覚めさせたのは、若手落語家きっての人気と実力を誇る春風亭一之輔さんだ。2012年に21人抜きで真打に昇進。現代感覚も取り入れた話芸の魅力に加え、テレビやラジオ、雑誌連載と多彩な活躍ぶりで幅広い世代の支持を得ている。

 そんな一之輔さんとの出会いは今から8年前。東日本大震災が発生し、一人暮らしの塩田さんは不安な時間を過ごしていた。

 「一人で家にいるのが心細くて、テレビも電気もずっとつけっ放しにしていました。そうしたら、震災から一週間後の金曜の夜中に、落語の番組で『あくび指南』という噺を演じる一之輔さんの姿が流れてきたんですね。その頃のテレビは公共広告ばかりが繰り返されていたから、『毛色の変わった映像だな』と思って何となく見始めました」