「当時は、計画停電や原発の情報が常に画面の一部を占めていたし、ニュースでは国連の安保理がリビア空爆を容認することも伝えられていました。日本でも海外でも、多くの命が失われる深刻な状況が起こっている。そんな時に画面の中のこの人は、ひたすらあくびをしてばかり。このギャップは何? と不思議な気持ちになりました

 その夜は震災後、初めて電気を消してゆっくり眠ることができた。「とにかくほっとしたのか、心地よかったのか。この時の落語はセラピーみたいな感じだったのかもしれません」

初めての寄席で「一之輔さんの落語って面白い!」

 一之輔さんのことが気になりだした塩田さんは、手始めにネットで情報を検索。初めて寄席に出掛け、『初天神』を生で聴いた。

 「一之輔さん演じる子どもがまあこまっしゃくれて生意気で。当時の一之輔さんは二ツ目で、トップバッターで高座に上がって15分くらいでさっと下りてしまったのですが、そこで初めて『この人の落語って面白い、もっと聴きたい』と思いました

 一之輔さんの落語が聴けるのは、出演している日の寄席か、ホールなどで行われる独演会だ。独演会は前もってチケットを取るが、寄席は当日券のみなので、仕事終わりに思い立って行くことが多い。「出先から直帰することになったとき、『今いる場所から一番近いのは新宿の末廣亭だな。でも一之輔さんが出るのは浅草演芸ホールだし、どうしようかな』みたいにその場で考えます。ただ、3年前に転職してからは勤務時間が12時半~20時半になったので、仕事帰りに行けなくて。最近は落語に行く日に合わせて有休を取っています」

(写真上)塩田さんの宝物、サイン入りCD。一之輔さんの噺はスマホに落として、いつでも聴けるようにしている(写真下)定期購読している『東京かわら版』。毎月の落語会や寄席の出演者の情報などをチェックできる
(写真上)塩田さんの宝物、サイン入りCD。一之輔さんの噺はスマホに落として、いつでも聴けるようにしている(写真下)定期購読している『東京かわら版』。毎月の落語会や寄席の出演者の情報などをチェックできる