一歩踏み出すために、ニセモノに騙されることも大事

河合 残念ながら、世の中はニセモノに満ち溢れています。フェイクニュース、フェイクセルフ、フェイクストーリー……。だから、わざわざ自分を探すために高額なセミナーや講座に通うのは、やめた方がいいですよ(笑)。

 ただね、矛盾するようですが、一度はニセモノに騙されることも大事だったりする。騙されるということは「一歩踏み出している」ことだから。賢い人は動かないから騙されない。

―― 何事も、「対岸の火事」だと傍観しているような?

河合 火事とも思わないんじゃないかな。「あの火は本物じゃないでしょう」とか言って、自分は動かない。ニセモノだとわかっていても、「わ~」と心が動くから人生は面白いのであって。その意味でも、世の中がいまどうなっているかを自覚することは、とても大事なことだと思います。

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河合俊雄 いまどきの「中年クライシス」と夫婦の危機

取材・文/砂塚美穂 撮影/小林禎弘

河合俊雄
臨床心理学者 京都大学こころの未来研究センター センター長
河合俊雄 京都大学教授、臨床心理学者。IAPP(国際分析心理学会)会長。京都大学大学院教育学科教授などを経て、2018年4月より京都大学こころの未来研究センター センター長を務める。日本人初のユング派分析家、故・河合隼雄さんの息子であり、継承者。2019年1月~3月に出演した、NHKカルチャーラジオ「文学の世界」にて「河合俊雄が読み解く村上春樹の“物語”」が話題に。『心理臨床の理論』(岩波書店)ほか、著書、多数。