見晴らしのいい、人生の中央地点に立っている(はず)なのに、「自分探し」に駆り立てられるのはなぜでしょうか。今回はその答えを求め、「個性化」や「自己実現」を中心に置く臨床心理学者ユング心理学研究の第一人者である臨床心理学者、河合俊雄さんを訪ねました。すると、いきなり「自分探しなんて、いまどきちょっと古いかな」とカウンターパンチを食らう羽目に。話は思わぬ展開へと進んでいきました。

(上)自分は必ずしも、自分の内にはいない ←今回はココ
(中)自覚のない不安感と「自分探し」の罠
(下)いまどきの「中年クライシス」と夫婦の危機

「自分探し」はちょっと古い?

河合俊雄さん(以下、敬称略) いまどき「自分探し」と聞いて、それ自体が若干、古いかなと思いました。なぜかといえば、本来、内面的なものであったはずの「自分」が現在は公私の区別がなく、ものすごく表面的になっているからです。「まず、人にどう見られるか」を気にする人がものすごく多いでしょう。インスタグラムに自分の日常生活をどんどんアップして、輝いていないといけないし(笑)、全然ダメな私では困るし、かといってやりすぎてもダメでね。

 仕事もして、学び直しもして、しかも美しくて。すべて意識が外向きです。しかも、やりすぎてはいけない点が非常に特徴的。「個性的」や「ユニーク」はいまどき褒め言葉になりません。憧れの対象さえ、どれも基本的に手の届く範囲で、等身大であることが求められています。

「自分探しはちょっと古いんじゃないかな」と切り出す、河合俊雄さん
「自分探しはちょっと古いんじゃないかな」と切り出す、河合俊雄さん