赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」。紫乃ママの元に、今日は大企業に勤める56歳の男性がご来店。「ずっとmust(やるべきこと)を軸に生きてきたから、want(やりたいこと)を考えたことがなかった」と話すエリート会社員。迷える男性の本音とは? (下)をお届けします。
(上)「must」に縛られてきた56歳エリート男性の苦悩
(下)56歳エリートが「出口治明さんに憧れるのをやめた」訳 ←今回はココ
これからの働き方を選ぶための3つの入り口
高梨 これからは自分のキャリアを「want」で考えなければならないって言ったけど、実は「コトのwant」じゃなくて「人のwant」が大事なんだってことに最近気づいたんだよね。今プロボノで手伝っているプロジェクトも、全部好きな友人がやっていること。だから助けたい。若い頃はそういう発想は持てなかったなあ。
紫乃ママ 冷徹なエリートは「人情」には左右されなかったと。いや、冗談です。いいじゃないですか、「人のwant」最高よ。私ね、最近セミナーでミドルシニア向けに「これからの働き方を選ぶための3つの入り口」について話すことがあるの。入り口の1つ目は「何を実現したいか」、2つ目は「自分が持っているスキルをどう使うか?」。そして3つ目は「誰と仕事がしたいか」。
3つ目の「誰と仕事がしたいか」って会社員生活が長い人は、みんな忘れてるの。例えば気が合う人がいてさ、「この人と何かやりたいから一緒に会社を作ろう」ということがあってもいいし、いいなあと思う中小企業の社長に出会って「この社長の人柄が好きだからこの会社に入って支えたい」と思ってその会社に入るっていう選び方があってもいい。
会社員をやっていると上司も部下もお客も選べないしね。一緒に働く人は選べないって思い込まされちゃうのよね。でもそこに気が付いて、会社以外の場で一緒に働いていて心地いい人を見つけ始めている高梨さんの未来は明るいですよ。
高梨 それだけ、とも言えるんだけどね(笑)。
紫乃ママ いやいや、すごく大事なことですよ。年が若いうちは、自分と合わない人とでも自分の幅を広げる意味でどんどん仕事上付き合っていくことは大事だけれど、人生後半になってあまりにも合わない人と仕事するのはストレス以外のなにものでもない。続かないわよ。
私なんて相手がお客さんでも「この会社(この人)と考え方合わないわ」と思ったら「ちょっと力不足で」なんて言って仕事を断っちゃう。自分の時間がもったいないもん。報酬の問題じゃない。おこがましい話だけどさ、人生後半になればなるほど時間の価値は上がるんだから、合わない人と付き合ってる時間なんてないわよ。