赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」。悩める中年男女が集まる「意識高い系スナック」の紫乃ママの元に、今日は『働かないおじさんが御社をダメにする』を出版したジャーナリスト、相模女子大学大学院特任教授の白河桃子さんがご来店。真っ昼間からグラス片手に、「働かないおじさん」問題をめぐる特濃スナックトークが始まります。
「働かないおじさん」の定義は、変化を拒む人
紫乃ママ あ、白河さんじゃないですか! いらっしゃいませ! ご無沙汰しています。コロナ禍の前に来てくださって以来ですよね。うれしい。
白河桃子さん(以下、白河) こんにちは。紫乃ママ、お久しぶりです。
紫乃ママ 白河さんが出版された『働かないおじさんが御社をダメにする』、読みましたよ。タイトルだけ見ると「働かないおじさん=悪者」でかなり挑発的だけど、中身は違って、事例を含めしっかりリサーチされていて、今の企業における中高年不活性問題の構造的な課題が詳しく書かれている。共感することがたくさんありました。
白河 「働かないおじさん」っていうのはちょっとあおったタイトルですけど、その定義は「変化を拒む人」のこと。本当は男性であることや年齢は関係ないんです。ただ、どうしても日本企業の年齢構成は45歳以上の男性が多いから、その大きな固まりがダイバーシティや女性活躍、イノベーションを阻んでいるのは事実。世の中で嫌われる「働かないおじさん」ですけど、実はおじさん側にとっても「約束が違う」っていう側面もあるんですよね。
紫乃ママ そうそう、おじさんが働かないのは理由があるんですよね。会社側もバブル期に大量採用した私たち世代が、社会の変化に伴って、組織の中でこんなにお荷物になるとは思ってなかった部分もあるんでしょうね。今までは50歳くらいで実質社内では隠居、子会社へ出向、そしてハッピーにリタイア、めでたしめでたし!っていう牧歌的時代だった。今や定年は70に延びるは、おじさんを出向させる子会社はないわ、成果主義だわ……時代は変わっちゃった。
この本は、そんな社会や会社の構造変化と、おじさんの事情、その両面から書かれているんですよね。「働かないおじさん」を一方的に責める論調が多い中でそれは画期的。一定の年齢で問答無用で役職を外す「役職定年」なんて、完全な年齢差別だもの。これだけ労働人口が減っているんだから、雑な言い方をすれば、会社は犬でも猫でも、おじさんでもおばさんでも、生かせるものは生かすようにギアチェンジしないと。まさにサブタイトルの「ミドル人材活躍のための処方箋」が必要ですね。
44歳で「これから先がない…」と気づく企業戦士たち
白河 企業戦士として重い鎧(よろい)を何枚も着せられて、今さら動きが取れなくてにっちもさっちもいかないのに、尽くしてきた会社でハシゴを外されても困るって人が多いんですよね。ある研究によれば、「この企業の社員としてこの先がない」と考え始めるのは平均44歳。そこから20年近くもやる気をなくしたまま会社で働かれては困りますよね。
企業は若い人や管理職だけでなく、ミドルシニアにも目を向けてほしい。DXを推進するコンサルタントと話すと、企業でDX推進が頓挫する理由の多くはミドルシニアの理解不足だというんです。最近、全社員にIT系のリスキリングをする会社も増えてきています。リスキリングやキャリア研修はぜひ40代からやってほしいと思いますね。
紫乃ママ 私も企業でセカンドキャリア研修をやっていますが、対象は50~53歳が多いんですよね。リストラのための研修じゃないかとみんなビクビクしている。私はざっくばらんに「リストラされなくてもあと10年もしたら会社との付き合い方が変わるんだから、準備するなら1日でも早いほうがいいですよ。死ぬ1日前まで会社にいるわけじゃないんだし」と伝えています。「こういう場を会社が用意してくれるなんて大企業だけ。せっかくだから大いに自分のことを考えてみてよ」っていきなりスナックトークみたいに(笑)。そう言うとみんな初めて、なるほどと思う。会社への不信感を持っている人も多いし、年を重ねて邪魔にされている被害者意識をバリバリ持っている人もいます。