赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」。紫乃ママの元に、今日は転職したばかりという44歳の男性がご来店。真っ昼間からグラス片手に、特濃スナックトークが始まります。転職に成功したはずの会社員が抱えるモヤモヤとは?

紫乃ママ いらっしゃい。あら、初めてのかた?

小川 あ、どうも。友人から紫乃ママの評判を聞いて来ました。実は昨年、金融機関から転職したばかりなんです。

今日の来店客/小川英二さん(仮名、44歳、既婚、子どもなし)
新卒で大手金融機関に入社。営業、企画を経験した後、30代で人事に異動。年功序列型の人事制度の改革に取り組む。人事のあり方を考えたことで、ふと自分の人生を見直すことになり、43歳で転職。起業も視野に入れつつ、人事のエキスパートになりたいと大手企業への転職に成功したものの、思った以上にアナログな環境にモヤモヤがとまらない。

昇進を目前に「自分のやりたいこと」を求めて転職

紫乃ママ そうでしたか。カタギの世界から昼スナワールドへようこそ。で、小川さんはそもそも新卒のときになぜ金融を選ばれたの?

小川 なんとなく収入もいいし、ステータスがあるイメージで。父親も大きな会社に勤めていたので、自分も大手企業に入るのかなと。

紫乃ママ そうかそうか。特にこれがやりたいってことではなかったのね。でも優秀がゆえの一流企業への入社か。で、どうして今、転職を?

小川 管理職になってから5年ほど人事をやってきました。人事って、その人や家族も含めた人生を考える仕事じゃないですか。会社の人事制度をなんとかしたいと考えていたら、ふと、自分はこのままでいいのかと考えてしまって。馬車馬のように働いてきたけど、42歳になって将来も見えてきて、これが本当にやりたいことなのかなって。

「最近、金融系の会社を辞めたいっていうお客さんが多いのよね」。前髪を大胆にカットして、言葉にも切れ味が増す紫乃ママ
「最近、金融系の会社を辞めたいっていうお客さんが多いのよね」。前髪を大胆にカットして、言葉にも切れ味が増す紫乃ママ

紫乃ママ 気づいちゃったのね。42歳、遅れてやってきた中二病(笑)。その世代でかかる人は多いけど、たいてい正気を取り戻して留まる。でも、小川さんはジャンプしちゃったのね。

小川 何か別の道もあるように思えてきて。ホリエモンの本なんか読むと、どこかに属して働かなくても起業という選択肢もあるのか、なんて思えてきて。ただ、人事制度を変えてこの会社の人たちを幸せにしたいとも思っていたので、人事改革に打ち込み全力で進めたんです。でも、その過程で経営層のシニアの方々と交渉しているうちに、大手企業にありがちな既得権にしがみつくおじさんたちと、これからも一緒にやっていくのかと思うといたたまれなくて。