赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」。『昼スナックママが教える 45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』を出版した紫乃ママの元に、今日も悩めるARIA世代が心の潤いと福音を求めてご来店。真っ昼間からグラス片手に、ナッツをつまみながらの脱力系お悩み相談…いやいや、特濃スナックトークが始まります。

紫乃ママ いらっしゃい。あら、尚子さん、2度目のご来店よね。

尚子 こんにちは。もう一度ママに相談したくて、また来ちゃいました。あ、とりあえずビールで。

今日のふらっと来店客/小澤尚子さん(仮名、51歳、既婚、子ども一人)
短大卒業後、専門商社に一般職で入社。会社の人事制度の変更で総合職になり、商品開発や人事部などで活躍するも、会社の吸収合併によって状況が一変。徹底した成果主義に変わり、息苦しい日々を送る。そんなタイミングでの早期退職の募集に「もう会社を辞めるべきでは?」と自問自答を繰り返す。2カ月後には全く希望していない部署への異動も決まり、明るい未来が見えません。

早期退職するか、望まない異動に甘んじて働くか…

紫乃ママ はい、ビールどうぞ。前回はこの連載を見て、訪ねて来てくれたのよね。会社の早期退職制度に応募するか悩んでいたのよね、確か……。

尚子 そうなんです。あのときは、中高年世代をターゲットに、退職金が上乗せされる超お得な早期退職制度の応募期限が迫っていて、どうしようか悩んでいたんです。退職金の積み増しは魅力的ではあるけど、辞めてもその後の計画もないしって。紫乃ママには「本当に辞めたい人はもっと辞めたいオーラが出てるものよ。尚子さんはまだその時期じゃないんじゃない?」って言われました。うちは夫が自営業で、新型コロナの影響で苦しい時期だし、定期収入が途絶えるのは怖いなという思いもあって、一旦は制度を使って会社を辞めるのは踏みとどまったんです。

 ところがあれから大きな組織変更の発表があり、2カ月後にパワハラの噂もある上司の部署に異動が決まって。しかもその上司から、異動前にもかかわらず、「今後はこれまでの業務とは全く違う雑用的な仕事をやってもらうから」みたいなメールが来て、「この年でまたここからか、やっぱり早期退職制度使ったほうがいいかも」と思い直したんです。とはいえ、30年勤めた会社を勢いだけで辞めちゃいけないと思って、分野の違う10人に話を聞きに行くことにしたんです。それで最後はもう一回紫乃ママに! と、今日来ました。早期退職制度に応じるかはいよいよ来週までに返事しないといけなくて。

紫乃ママ 10人に相談とはすごい行動力ね。ちなみに他の方たちはなんて言ったの?

早期退職制度の条件は魅力的に思えるけれど…。辞めるのも不安、残るのも不安…
早期退職制度の条件は魅力的に思えるけれど…。辞めるのも不安、残るのも不安…

尚子 特に二人の言葉が胸に響いて。一人は、会社が契約した再就職支援エージェントのキャリアコンサルタント。「日々合わない職場で働くのは大変だと思いますよ。不安だと思うけど再就職も2回までは私たちが支援するし、あなたのキャリアなら大丈夫ですよ」と。 ここで「辞めようメーター」が一気に90まで上がりました。もう一人はなじみの喫茶店のマスターの言葉。彼には「やりたいことが決まる前に、お金や条件を理由に辞めない方がいいよ。人は生まれつき持っているもの、子どものころから求めているものがあるはず。それが何かをきちんと考えて、やると決めたら努力する。一番大事なもので頑張って積み重ねていけば人生が豊かになる」って言われたんです。

紫乃ママ いいこと言うじゃない、そのマスター。ほれそう。で「辞めようメーター」はどうなったの?

尚子 40まで下がりました(笑)。でも、やっぱり不安。今、会社がガラッと変わろうとしている時期なんですよね。上司もどんどん外国人になって、今までの「ザ・日本企業」みたいな感じから成果主義に急激にシフトしていて。英語でコミュニケーションができない50代以上はいらないって感じです。自分も頑張らないといけないけれど、上司とうまくやっていけるか不安だし、仕事の内容にも明るい未来があるとは思えない。同じ部署の定年退職する先輩からは「残って頑張ってくれ」と言われるけど、正直「もうラクをしたい」という気持ちもあって。

紫乃ママ 尚子さんが思う会社の中での明るい未来はどっちなの?「ラクをしたい」、それとも「活躍したい」? まず、それが決まらないと、何がしんどくて何がしんどくないことか分からなくなるんじゃない?