紫乃ママ 地域活動にしても、ボランティア活動にしても、予定調和がないし、みんなが共通言語を使って理路整然と話すような場ではないですものね。逆に大企業の中って忖度(そんたく)と予定調和が渦巻く特殊な世界。そっちのほうが実は異常かも。

安渕 スナックで隣の人が「いろいろあってね」と言ったら、「どんなことがあったんですか」って聞いてみる。人に対する興味だよね。これを日々やっている紫乃ママってすごいと思う。

紫乃ママ うわ、安渕さんに褒められた(ポッ)。

男性性、女性性は持って生まれたものじゃない

安渕 江戸文化研究者の田中優子さん(法政大学名誉教授)から聞いた話だけど、江戸時代は3つぐらい違う名前を持っていたそうなんです。俳句を詠むときや隠居をするとき。それぞれ別の人として場所と名前を持っていた。それが江戸の人たちの遊びであり楽しみであった。江戸時代のアバターですね。

紫乃ママ へえ、面白い話。でもそのほうが楽しいですよね。スナックのママになったり、女子大で講師したり。私ごときでも、いろんな面がある。行く場所を増やすとその場ごとでいろいろな自分になれるから、その場ごとのコスプレが楽しめる。そして行く場がたくさんあれば気持ちが楽になるじゃないですか。場所が1つしかないとしんどいですよね。会社しか居場所がないと、ずっと会社員のコスプレをし続けるしかないけど、そうじゃない場所に行くと、「謎にお手伝いしてくれる人」や「おみこし担ぐときだけ来る人」とかになれる。

 私、社会貢献活動だけでなく、演劇とか音楽とか、あるいは歌舞伎みたいな伝統芸能や文化的な世界に40、50代以上の男性がもっと入ると、世の中も変わってくると思うんです。

安渕 僕は歌舞伎も、宝塚歌劇も好きなんだけど、両方見ていると面白いんだよね。男性性や女性性は、演技でつくれるものだって分かる。持って生まれたものじゃない。歌舞伎では男性が「女性性」を女性以上に表現するし、宝塚では女性が「男性性」をすばらしく演じてみせますよ。

紫乃ママ あ、そうか! 歌舞伎は女形、宝塚は男役、異なるジェンダーを難なく演じてる。それは劇場に見に行かないと気がつかないことですね。やっぱり文化も含めた会社の外との接点は本当に大事。仕事だけに没頭していると新しいことは生み出せないですよね。

「自分1人なら1日8時間働いても週40時間。でも部下が5人いたら×5で200時間になる。一人ずつが40時間をいかに有効に過ごせるか。それを考えるのがリーダーや上司の一番大事な仕事だと思います」
「自分1人なら1日8時間働いても週40時間。でも部下が5人いたら×5で200時間になる。一人ずつが40時間をいかに有効に過ごせるか。それを考えるのがリーダーや上司の一番大事な仕事だと思います」