「近年経済学で話題になった、ハーバードビジネススクールの学生を対象とした仮想実験があって、成功報酬よりも固定給のほうが収益を上げているという結果が出ています。さらに『初期は固定給で、後半で成功報酬にする』というやり方が最も収益が上がりました。これはなぜかというと、革新的な技術やアイデアを必要とする仕事では、ある程度失敗を許容する時間的なインターバルが必要だからです。最初から成功報酬だと、リスクを取らない仕事の仕方をすることが明らかになっています。

 私は、実証されていないことを理由に制度設計をするのは非常に危険だと思っています。データや科学的な根拠に基づいて制度設計や施策を決定していくことが重要ではないでしょうか」(中室さん)

組織とは人間の不変の本性に根差した「部族ごっこ」

 働き方の問題では、今後多くの職種がAIで代替可能になるという未来予測が知られていますが、「AIの研究をしていると、知能の部分はAIによってどんどん技術的に進んでいく一方で、人間の本性の部分は変わらないということをすごく実感している」と松尾さんは言います。

 「働き方改革の話を聞いていつも思うのは、会社組織そのものが、人間の本性に組み込まれた『部族ごっこ』みたいだということ。人間は社会性を持った動物で、集団をつくって敵と戦うということをずっとやってきました。サッカーのワールドカップであれだけ盛り上がるのも、ほとんど本能に直結しているわけです」

東京大学大学院特任准教授の松尾豊さん
東京大学大学院特任准教授の松尾豊さん