「予約の取れない美容師」として女性たちから絶大な支持を集めるTWIGGY.オーナーの松浦美穂さん。「未来に残せることしかやらない」と決め、本当に大切な美のあり方について伝えられるサロンをつくると決意して30年余り。美容業界のトップを走り続ける松浦さんが今、伝えたいこととは? 連載第5回をお届けします

いざ!という時に、ストップがかかる人生だけど…

―― 松浦さんのサロン「TWIGGY.」が30周年を迎えた2020年は、新型コロナウイルスが世界を襲ったタイミングと重なりました。松浦さんの仕事や人生のプランにも影響があったのではないでしょうか。

松浦美穂さん(以下、松浦) やはり影響はありましたね。30周年を機に、私の第二の故郷とも言えるロンドンと交流を深めながら新しいチャレンジをする予定だったんです。でも、渡航もままならない状況によって断念。計画は止められてしまいました。

 振り返れば、私はいつも「いざ!」という時に、ストップがかけられる人生でした。ロンドンに渡って、「美穂ちゃん、あなたはこれからだよ」と『VOGUE』や『ELLE』の編集長に期待をかけられていた矢先に、妊娠が発覚。でもね、今思えば、それでよかった。妊娠も出産もその後の子育ても、すべての経験があって、今の私の生き方につながっているのだから。

 今回のコロナによってストップがかけられたいくつかの計画はありますが、この予期せぬ変更は、私にとって必要なことだったのだと思います。実際に今、「止まらなければ得られない気づき」を感じながら暮らしています。

TWIGGY.オーナーの松浦美穂さんは、28歳でロンドンへ。「ファッションと音楽が大好きで、特に1960年代のロンドンカルチャーに憧れていたのと、ケミカル全盛だった当時の日本の美容界では得られない学びを求めてのことでした。息子を出産したのもロンドンです」
TWIGGY.オーナーの松浦美穂さんは、28歳でロンドンへ。「ファッションと音楽が大好きで、特に1960年代のロンドンカルチャーに憧れていたのと、ケミカル全盛だった当時の日本の美容界では得られない学びを求めてのことでした。息子を出産したのもロンドンです」

―― 例えば、どんな気づきですか?

松浦 学べることは、身近な足元にもあるのだという気づきです。私はもともと旅が大好きで、「旅に出たい、旅に行こう」と外へ外へと自分を連れ出そうとしてきました。常に新しい旅の体験をしなければ、インプットはできないと思い込んでいたんです。でもね、過去の私が訪れた旅先から持ち帰った美しいものから、当時受け取った感動を味わうこともできるんだって気づく。この1年はそんな日々でした。

 例えば、自宅のリビングに置いてあるテーブルは、インドで買ってきた穀物を運ぶための大きな木製のたらいに足を取り付けて、特注のガラス板を置いたもの。たらいの中には、他の地域で一目ぼれした民族衣装をディスプレイしているんですね。外出が減って、家で過ごす時間が増えたことで、ガラス越しに見える刺しゅうや柄をじーっと見入るようになって。もう10年以上前からそこにあるはずなのに、私はちっとも見ていなかったと気づいたんです。