「予約の取れない美容師」として女性たちから絶大な支持を集めるTWIGGY.オーナーの松浦美穂さん。「未来に残せることしかやらない」と決め、本当に大切な美のあり方について伝えられるサロンをつくると決意して30年余り。美容業界のトップを走り続ける松浦さんが今、伝えたいこととは? 連載第2回をお届けします。

「キレイなヘアスタイル」という退屈な考え方からは卒業!

―― 連載の第1回で、米国発のオーガニックブランド「AVEDA」との契約が美容師としての仕事の転機になったとおっしゃっていました。松浦さんはどんな役割を担ったのでしょうか?

松浦美穂さん(以下、敬称略) このブランドはホースト・レッケルバッカーという創業者がバックパッカーで世界中を旅した後につくったヘアケアシリーズで、環境保護の観点から厳選した自然由来の原料にこだわることが特徴です。私もたまたま愛用していたこともあって役目を引き受けたのですが、環境保護ではなく頭皮ケアを前面に打ち出すことを強く勧めたことが、本社の経営陣も意外だったみたいです。

 加えて、このときに美容業界に対して初めて言えたセリフがあって。それは「明日のキレイを目指すのではなくて、80歳、90歳、100歳までキレイでいましょう」というもの。当時のヘアケアマーケットは、短期的な収益を求めるあまりに、長期的な健康をないがしろにしていると私は感じていました。「すぐに結果を感じられたらいい」という発想で、頭皮や髪に刺激を与える成分も含んだケミカルな製品ばかり陳列されていたのです。

ロンドンから帰国後、30歳で東京にサロンをオープン。「実は、起業して10年たっても『理想にはほど遠い』とフラストレーションをためていました」
ロンドンから帰国後、30歳で東京にサロンをオープン。「実は、起業して10年たっても『理想にはほど遠い』とフラストレーションをためていました」

 そして、それらを売る大手メーカーの声は大きく、たった一人の個人である私の声はかき消されていました。だから、AVEDAというブランドの力を借りて発信したんです。「ただキレイな髪という退屈な考え方はもうやめましょう! 遊びましょう! だけど頭皮は守りましょうね。髪は頭皮から生えるのです」と……。

―― その頃から20年たった今、頭皮ケアは常識になりつつありますね。

松浦 気分は「YES!」(と笑ってガッツポーズ)ですよ。実は、AVEDAとほぼ同時期に某外資系大手ブランドからのオファーもあったのですが、私の生き方の指針とは相いれないためにお断りしていたんですね。文面に書いてあった契約金に目を丸くしましたけれど(笑)。