「私としてはその日はとりあえず会うだけで、うちに迎えるとしても後日改めてと思っていました。ところが着くなり、お世話をしていたおばさんたちが『シロちゃんよかったねえ、今日からあんたも世田谷の子だよ。幸せになるんだよ~』と、送り出す気満々だったんです(笑)

 三井さんの戸惑いをよそに目の前では捕獲作戦が繰り広げられ、もはや「今日は見に来ただけで……」とは言えない雰囲気に。「これから家まで送り届けてあげる」と言われ、そのままおばさんが運転する車でシロくんと東京へ戻ることになりました。

 予想外の展開に驚いたのは三井さんだけではありません。突如見知らぬところへ連れてこられたシロくんは触ろうとすると暴れ、おびえきっていました。「翌日、病気を持っていないか診察してもらうため何とか病院へ連れて行ったのですが、疲れと不安から私、だーだー泣いちゃったんです。そうしたら獣医さんがすごくいい人で、『この子をもう一度連れ出すのは大変だから、普通は同日にやらないんだけど』と言って、特別にその場でシロに去勢手術をしてくれることになりました」

シロくんと夢子ちゃんの抜け毛を集めて作った「シロボール」。まるでおしゃれなインテリア小物
シロくんと夢子ちゃんの抜け毛を集めて作った「シロボール」。まるでおしゃれなインテリア小物
警戒しつつ取材陣の様子をうかがうシロくん。家政婦は見た!?
警戒しつつ取材陣の様子をうかがうシロくん。家政婦は見た!?

「この子はすごくいい子になるから安心して」

 数時間後、手術を終えたシロくんを迎えに行った三井さんに獣医は思いがけない言葉をかけます。「この子、たぶん1~2週間したらすごくいい子になるから安心していいですよって言ってくれたんです。それでうれしくて、また泣いちゃいました」

 獣医の「予言」通り、シロくんは少しずつ三井さんとの暮らしに慣れ、1カ月ほどで落ち着いた様子に。鋭かった目つきは、見違えるほど穏やかに変貌していきました。

 やがて、シロくんにきょうだいがいたほうがいいかなと思い始めた三井さん。シロくんをもらい受けるときに、母猫がまた妊娠していて、今度出産したタイミングで避妊手術を受けさせると公園のおばさんが話していたことを思い出します。「もし白猫が生まれていたら欲しいなあと思って連絡してみたんですね。そうしたら、流産したのか子どもは見当たらず、母猫は手術をして今は一時的におばさんの家で面倒を見ているとのこと。暖かくなったら公園に戻そうと思っているということでした。その話を聞いたとき、子猫なら欲しくて成猫ならいらないっていうのはどうかなと思って、『お母さん猫、よかったら引き取ります』と言ってしまったんです

 こうして2017年3月にシロくんのお母さんも三井さんの元へ。苦労した分これから楽しく過ごしてほしいと、夢子という名前をつけました。

右耳の先が少し切れている夢子ちゃん。公園時代、子猫を守ろうとカラスと格闘したときにやられたものらしい。「夢ちゃんは本当に苦労人なんです」
右耳の先が少し切れている夢子ちゃん。公園時代、子猫を守ろうとカラスと格闘したときにやられたものらしい。「夢ちゃんは本当に苦労人なんです」