「本人の希望で、父は最後の時間を自宅で過ごすことになりました。なるべくそばにいたいけれど、私が住んでいるのは横浜で、仕事をしながら千葉の実家に頻繁に通うことは難しい。これまで進学、就職、社労士の資格を取って転職と、ずっと順調に頑張ってきたけれど、ここで仕事を辞めてみるのもいいかなと考えました。ただ、父が亡くなった後のことを考えると、『どこにも属さない自分』になることには不安がありました。

 そんなときに、夫婦の間で『犬を飼う』という話が持ち上がりました。犬は社会的な動物なので、毎日の散歩が欠かせません。この一見やっかいなルーティンワークこそが、仕事を辞めることをためらっている私の背中を押してくれることになったのです

取材の間、広々としたリビングを思い思いに移動しながら過ごす宇太くんと音和ちゃん。人と犬が、心地よい時間を自然体で共有している
取材の間、広々としたリビングを思い思いに移動しながら過ごす宇太くんと音和ちゃん。人と犬が、心地よい時間を自然体で共有している

夫婦共に「飼うなら甲斐犬」、そこへ運命の出会いが

 まだ犬を飼うと決める前のこと。動物写真家の岩合光昭さんの写真集を夫と見ていた安達さんは、「もし飼うとしたらどの犬がいいか、せーので指さしてみようか?」と提案します。夫婦が選んだのは、偶然にも同じ犬種。それが甲斐犬と川上犬でした。

 それから1カ月もしないうちに、夫のところに仕事の取引先の人から「甲斐犬の赤ちゃんが生まれて、もらい手を探しています」という情報が舞い込みます。「これはもう運命だ!と思って会いに行ったら一目ぼれ。甲斐犬のパピーって、くまのプーさんみたいで本当にかわいいんです。しかも、お母さん犬が出産直後だからか、すごく神々しかったのが印象的で。そのたたずまいに出会わなかったら、飼うことを決断しなかったかもしれません

 こうして2008年に安達家にやって来た宇太くん。その2カ月後に父親は亡くなりましたが、慣れない子犬の世話などで忙しく過ごすことで、悲しみを紛らわすことができたといいます。