バイオロギングを猫に応用できるのではないか
伊豫さんが大学と大学院で専攻していた研究分野は「バイオロギング」。動物の体に小型の記録装置を付けて、得られたデータから行動や生態を明らかにしていくものです。研究は楽しく、いつかまた動物に関わる仕事に戻りたいという思いはずっと心のどこかにありました。
バイオロギングはクジラやペンギンなど、主に海洋動物が研究対象。これを猫に応用して、何かできるのではないか……そう考えた伊豫さんは、10年ぶりに恩師の元を訪ねて意見を聞き、同じくプロダクト開発の仕事に携わる夫とも自宅で連日ブレスト。「バイオロギングと、プロダクト開発と、猫の3つをかけあわせた背景を持っているのは恐らく私しかいない!」と、起業へ向けて一気に動き始めます。「猫を飼っている周りの人に話を聞いたら、共働きや一人暮らしの人は私と同じようなことを感じていると分かりました。その後行ったウェブアンケートでも、やはり猫に留守番をさせている人の8割くらいが不在時の猫のことを心配しているという結果。そこから、どんなものがあればいいのか、どんなことが技術的に可能かを考えていきました」
こうして出来上がったのが、「Catlog(キャトログ)」という首輪型の装置です。ペンダントの部分に加速度センサーが内蔵されていて、「ご飯を食べている」「寝ている」「歩いている」「くつろいでいる」などの行動を検知。飼い主はスマートフォンの専用アプリで愛猫の状態をいつでも確認することができます。今後はさらにデータ解析の研究を進め、活動量の低下や嘔吐(おうと)、けいれんといった、病気の兆候が疑われる行動も検知できるようにしていきたいと考えているそうです。
Catlogは猫に負担の少ない素材や形状を採用しており、完成にたどり着くまでの間には、ブリ丸くんが試作品をいくつも装着するなど重要な役割を果たしました。現在はウェブサイトでモデルを務めているほか、おでんくんと共に週1日程度、オフィスに「出社」。取材に同席したり、目の前で猫の行動を見ながらのデータ採取に協力したりしています。
「購入者からは、『留守中の様子が見えるようになったのがうれしい、こういうものが欲しかった』という反応が一番多いですね。飼い主さんの不安をあおるのではなく、外にいても猫と一緒にいるような、生活が楽しくなるプロダクトにしたいと思っていたので、それを感じてもらえているのはうれしいです」
お気に入りの時間
甘えん坊のおでんくんは伊豫さんの膝の上が大好き。「夜、仕事から帰ってソファに座っていると、おでんちゃんはほぼ私の膝の上にいます。そんなおでんちゃんをなでながら、床暖房が利いたフローリングでごろんと寝そべるブリちゃんを眺めている時間が一番幸せです」(下の写真は伊豫さん提供)