アナログ感覚の体験は、感受性を育む絶好の機会

佐藤 僕は東京生まれですが、小さい頃、実家の前にはキャベツ畑が広がり、冬の畑で凧揚げができました。残念ながら、今家族で住んでいる都心の街には土がありません。地球の上で生きていることを実感しづらいんです。

 自然ほど五感を刺激するものはありません。特にデジタルな時代にアナログ感覚の体験は、感受性を育む絶好の機会です。

佐藤さんが大事にしているのは、自分の手で触れる体験。写真は、千葉県君津市の野菜畑にて。泥だらけになりながら野菜の旬、力強さ、おいしさを知った息子が4歳の頃(写真提供:佐藤さん)
佐藤さんが大事にしているのは、自分の手で触れる体験。写真は、千葉県君津市の野菜畑にて。泥だらけになりながら野菜の旬、力強さ、おいしさを知った息子が4歳の頃(写真提供:佐藤さん)

佐藤 ネットで農業について丸1日調べるより、実際に畑に行って30分でも自分の手を動かして土に触れ、農作業をする方が、得る情報のリアリティーが圧倒的に増します。釣りも同じで、生きた魚を釣り上げて触れ、最後に食べるというアナログなプロセスから五感で多くのことを得られます。

 感受性が鈍いと人は何もつくり出せないじゃないですか。他人が喜ぶものも、誰かを助けるサービスも、感じ取る力があってやっと生み出せる。芸術に限らずあらゆる仕事につながる重要な能力です。

―― 感じ取る力は知識以上に生きる力や仕事力になるし、意識しないと鍛えられないということですね。

佐藤 息子は絵画のセンスはあるのでクリエーティブな仕事は向いていると思います。ただ、デザインという仕事の定義も今後は変わっていくでしょう。他のさまざまな仕事も今のままではないはずです。

面白がりながらできる仕事に就いてほしい

佐藤 AI(人工知能)中心の世界になるとアートはデータとは異なる解決方法を担う重要な要素になる。僕とはまた違う、創造的で面白い仕事ができるといいね、と悦子と話しています。

 若いうちに起業するのもいい。僕自身は会社員として企業に属して学んだことがとても多かった。なので、会社勤めをすることももちろんよいと思います。

 働いて、人として自立することが最優先ですが、スタイルは自由、本人の選択に任せます。その上で若いみんなには、面白がりながらできる仕事に就いてほしい。巨万の富を手にしても会社で内輪もめをし、子どもと骨肉の争いでは悲しい。

 儲けが少なくても意味のある仕事をし、仲間と共にハッピーだったら、それはそれでもう大成功です。