体験で伝える、価値と価格の関係

佐藤 昨年の夏休みには、前から訪れたかったタンザニアのサファリロッジに家族で泊まりました。見渡す限り雄大なサバンナが広がり、ホテルの部屋からも水飲み場に集まる象の群れを眺められる、贅沢(ぜいたく)な毎日でした。

 その風景を見ながら息子と話したのは、「こんな所にこれほど設備の整ったホテルをつくる発想ってすごいね。宿泊客が快適に過ごせるよう大勢の人が働いてくれているし、朝の野菜やパンも遠くから時間と人手、お金もかけて運んで調理してくれたんだ。お陰で価値のあるいい時間を過ごせてるよね」ということでした。

―― このホテルの宿泊料は高いぞ? ではなく、設えた人の着想や実行力、運営コストについても触れてその価値を一緒に考える。

佐藤 テレビを見ている時はよくコマーシャルの制作料を話題にします。「このCMは相当お金をかけないとできないし、手間も半端ない。登場する人が多いし、セットも大仕掛けだ」「こっちは100分の1くらいの金額で作れるよ」といった感じです。

 息子はスマホでの動画制作に最近凝り出したので、「コマーシャルを作るために、何にそんなにかかるの?」と真剣に聞いてきます。

「カメ止め」を教材に価値と価格を考える

佐藤 大ヒットし、海外でも高く評価された2018年の日本映画「カメラを止めるな!」は、息子と映画館で大笑いしながら楽しみました。

 映画を見た後で、「カメ止め」は300万円という低予算、「スター・ウォーズ」の新作は600億円以上の製作費がかかっているんだよと話すと、目を丸くしていました。

 2つとも大勢の観客を引きつける素晴らしい映画です。そして「カメ止め」の低予算を補ったのは、1人何役もこなした上田慎一郎監督らの工夫と創造力だよということも伝えました。面白い映画を作る仕事に息子は興味をもったようです。

価値と価格を巡る ある日の父子の会話
教材は、映画「カメラを止めるな!」。国内外で高く評価された2018年の大ヒット映画で、監督は上田慎一郎氏。佐藤さんは親子でこんな会話をしたという。

 ヤバいなぁ、最高だった。
 この映画は300万円で作ったんだって。
 高っ!
 おいおい、300万円だとテレビCM1本作るのにも厳しい金額だよ。「スター・ウォーズ」の最近の作品は、製作費が600億円以上かかったんだ。
 ん? 「カメ止め」は低予算の映画なんだ。確かに、そうかも。
 監督も役者もカメラマンも、複数ずつ役割をこなしてたでしょ。撮影場所も最小限。考え抜いたアイデアとチームの協力で、「スター・ウォーズ」とは違うパンチが効いていて面白いよね。
 想像力の勝負かぁ。僕はどっちの映画も好きだなぁ。
 世の中にはお金をかけて作り込むから価値が上がる作品もある。お金をかけられなくてもアイデアで人をうならせる方法もある。どっちもクリエーティブな仕事で、予算だけでは語れない。「カメ止め」はヨーロッパでも高い評価を受けたんだ。中身が面白いのは無論、超低予算で完成させた工夫も、笑いと感動を誘い、評価されたんだよ。
 同じ2時間くらいで300万円と600億円かぁ。どっちも作る現場は楽しそう。
 絶対に楽しいと思うな。