休みやすい空気づくりは上司の役目

安原 コロナ禍によって従来とは異なる環境下で新社会人となった若手社員は、「パフォーマンス向上のために適度な休みが必要」と感じながらも、「うまく休めていない」ことが調査で浮かび上がっています。先輩社員の働く様子を目にする機会がなく、どう息抜きをしていいかわからない人が増えているのですね。なかなか休みを取らないスタッフに対してマネジメント側としては、半強制的に有休を取らせるなどルールを作っている場合もあります。

安原ゆかり●日経BP総合研究所 上席研究員。「日経WOMAN」創刊時より関わり、「日経マネー」「日経おとなのOFF」「日経WOMAN」編集長などを歴任し、現職。働く女性やシニアの活躍支援体制づくり、企業のESG/SDGs対策の課題解決支援などを行っている。
安原ゆかり●日経BP総合研究所 上席研究員。「日経WOMAN」創刊時より関わり、「日経マネー」「日経おとなのOFF」「日経WOMAN」編集長などを歴任し、現職。働く女性やシニアの活躍支援体制づくり、企業のESG/SDGs対策の課題解決支援などを行っている。

厚切り ルール化した休みを押しつけるやり方には賛成できません。「今週は休め」と上から言われても、人によっては頑張りどころの時期かもしれないし、強制された休みは、逆に不満の種になりかねない。

人は皆、人生観もキャリアプランも違います。それぞれの生き方を認め合うことが大前提ですし、休み方は個々人のキャリアプランに密接にひも付いているものなので、ひとつのルールに集約できるものではありません。働き方改革も有給取得方法もルールを作ればマネジメントしなくていいからラクだけど、それでは最初から形骸化していて目的を見失ってしまうと思う。

それでもなおチームメンバーを「休ませる」ことが必要であれば、上司がまず率先して休む姿を見せるべきですね。例えば、1週間休むと宣言したら、メールの送信はもちろん、返信も一切しない。休暇だけでなく、仕事中の休憩も積極的に取る。

休み方の見本を見せるとともに、「さっきビルの周りを気分転換に一周してきたら、新しいアイデアを思いついた」といった声かけで休みのメリットも具体的に伝えると、部下も「そうか、休んでいいんだ」と意識が変わり、休むことをポジティブに捉えるようになるのではないでしょうか。口だけで「もっと休もう」と呼びかけても説得力がありません。マネジメント層がまず行動し、休みやすい空気づくりをしていくことが大事ですよね。

マネジメントの鍵はコミュニケーション

安原 確かにそうですね。日本人が自由に休みにくい理由のひとつとして、「仕事の成果できちんと評価されるのか、確信がもてない」ことがあるかもしれません。評価基準が曖昧な職場だと、上司が職場にいる間は帰りづらいなど、長く会社にいることで勤勉さを示すパフォーマンスを取らざるを得ない人もいるのではないでしょうか。

厚切り そのことで、僕もひとつ気付いたことがあります。それは、履歴書の書き方。特に転職する場合、アメリカではどんなプロジェクトに加わって、年間どれぐらい利益を上げたのかといった具体的な数字に基づいた詳しい職歴を書きます。一方、日本の履歴書に書かれているのは、だいたい入社年や退社年のみ。どこに属していたかの方が重要で、その人がどんな仕事をして、どういう成果を上げたのか、全然見ない企業があることに驚きました

日本でも職務内容を明確に定めて、労働時間ではなく成果で評価するジョブ型雇用の企業が増えているようですが、まだ一部ですよね。企業の方針はさまざまだと思いますが、マネージャーとして部下の信頼を得るためにまずできることは、部下と一人ひとり密にコミュニケーションを取ることだと思う。

将来こうなりたいといった部下自身のキャリアプランをヒアリングし、そこに向けて毎年目標設定をしっかり行うことが重要ですね。ここを明確化するのも上司の役割です。そして、年度末にその目標が達成できたかどうか、できなかった場合は原因や解決策を話し合う。目標と成果、そして評価がきっちりリンクしていることを提示できれば、成果評価への不信感を払しょくできるかもしれません。

休暇に関しても、年初にそれぞれが休みたい時期を聞いて予定しておく。チームの仕事に影響が出そうなところは相談するようにすれば、みんなをスムーズに休ませることができるのではないでしょうか。