客席から見えない細部までもこだわりが

ドクのドラッグストア。小道具はすべてニューヨークで集めたもの
ドクのドラッグストア。小道具はすべてニューヨークで集めたもの
ヒロイン・マリアの親友アニータのブライダルショップ
ヒロイン・マリアの親友アニータのブライダルショップ

 通常の劇場と「IHIステージアラウンド東京」の大きな違いは、周囲に舞台装置をセットしておけること。場面の転換や暗転しなくても芝居を続けることができるのが大きな特徴の一つ。今回のバックステージツアーは、余すところなくすべてのセットを見せていただいた。

 中でも特に目を引いたのが、主人公トニーが働くドラッグストア。「本物を置きたい」とセット専門のデザイナーが来日。小道具の古新聞はその当時を再現しているなど、客席から見えない細部までこだわって造られているんだとか。

舞台裏、床に貼られた案内マップ。真っ暗な中では、今まどこにいるのか分からなくなってしまうんだそう
舞台裏、床に貼られた案内マップ。真っ暗な中では、今まどこにいるのか分からなくなってしまうんだそう
表舞台とはまるで表情の違う貴重な舞台裏
表舞台とはまるで表情の違う貴重な舞台裏

 客席から見える、きらびやかな舞台とは180度違った舞台裏の様子も見ることができた。所狭しと置かれたセットは、まるで迷路のよう。キャストたちは真っ暗の中、少ない時間で360度の舞台を移動するため、足元には案内図がテープで記されていた。

特別に、衣装部屋も見せていただいた
特別に、衣装部屋も見せていただいた
ステージ裏には、トレーナーがトリートメントを行うマッサージ用のベッドも
ステージ裏には、トレーナーがトリートメントを行うマッサージ用のベッドも

 舞台裏の動線は1周およそ250メートルあるのだとか。その都度楽屋に戻る時間はないため、舞台裏には、衣装の早替えスペースも設置。こうしたスタッフの陰ながらの支えがあって、あの素晴らしい舞台があると思うと頭が下がる思いだった。

「偏見、暴力の世界で生き抜いていくために恋にもがく作品である」(脚本家のアーサー・ローレンツ) Photo: Jun Wajda
「偏見、暴力の世界で生き抜いていくために恋にもがく作品である」(脚本家のアーサー・ローレンツ) Photo: Jun Wajda

 「まるで映画を見ていたみたい」。この日参加した読者の皆さんは、観劇後一様に口をそろえてそう語っていた。「ミュージカルや舞台が大好きで、日ごろからよく見ている」という方々が多く集まっていたが、「暗転がなく舞台がつながっているから、気持ちが切れずにストーリーに入り込んで見ることができた」と、気づけば自分も舞台の中にいるような演出に驚いていた。「ここまで見せてくれるの?」と大盤振る舞いのバックステージツアーにも皆さん満足していただけた様子。

 本場の来日キャストの公演が見られるのは10月27日(日)まで。来日キャストに続き、日本キャスト版で3バージョン、キャストを入れ替えての上演が11月~2020年5月まで行われるので、ぜひ足を運んでみてほしい。

 今後も「日経doors」「日経DUAL」「日経ARIA」では、演劇、コンサート、ミュージカル、バレエ、展覧会など有料会員の皆さま限定の特別企画を定期的にご案内していく予定。ご期待ください!

取材・文/尾崎悠子(日経doors編集部) 写真/清水知恵子