ビジネスパーソン向けのアート鑑賞ワークショップへの注目が高まっています。東京国立近代美術館では「ビジネスセンスを鍛える」と銘打って個人を対象に参加者を募集し、一夜にして定員がいっぱいに。ポーラ美術館では企業研修を対象にしたワークショップを昨年から本格的に展開し、年内の枠はすべて埋まっています。なぜ、いま「アート鑑賞」が重要視され始めているのでしょうか。その効用、目的とは? 2つのワークショップに潜入しました。

 6月22日、東京国立近代美術館が「Dialogue in the Museum-ビジネスセンスを鍛えるアート鑑賞ワークショップ」を開催しました。「当館では2003年から『所蔵品ガイド』という『対話鑑賞プログラム』を毎日行っていますが、ビジネスパーソン向けに鑑賞ワークショップを行うのは今回が初めて。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を執筆した山口周さんと1年半前から準備し、受講料2万円という金額にもかかわらず、一晩で定員の30人が埋まりました」(東京国立近代美術館 教育普及室長 一條彰子さん)

「ジャッジメント」のクオリティーを上げるためのアート鑑賞

 参加者は20代から50代までの30人。経営者、コンサルタント、ホテルのアートプロジェクトディレクター、プログラマーなどさまざまな職種の男女が参加しました。約3時間のワークショップは、講師の山口さんの説明からスタート。一部をご紹介します。

 「通常の鑑賞教育と大きく違うのは、『ビジネスパーソンのための』と銘打っているところです。基本的には、仕事に関わる人たちの能力が上がることを前提に考えています。どんな能力かを一言にすると、『ジャッジメント』のクオリティーを上げること。すべてが論理的に白黒つく世界ならいいですが、今、皆さんが生きている世界はそうではないことが増えています。

東京国立近代美術館の会議室で30人のビジネスパーソンを前に講義する山口さん
東京国立近代美術館の会議室で30人のビジネスパーソンを前に講義する山口さん

 皆さんが物事を判断するときにこれから重要になってくるのは、論理や世の中の習慣に従って判断するのではなく『どの選択が一番美しいか』ということ。『心を動かして判断する』ことが必要になってくるのです。今の日本は、子どもの頃からずっと正解を求められ続けます。心を動かすということがなく、カサカサになってしまっています。

 今日、このワークショップに参加したからといってすぐに心が柔らかくなるわけではありません。ずっと続けることで柔らかくなってくる。このプロセスにはすごく長い時間がかかりますから、楽しみながらやるのがポイントです。まずは、アートカードを使って頭を柔らかくしましょう」(山口周さん)