アート鑑賞が企業の研修になる時代
 一方で「ビジネスのためのアート・ワークショップ」と題し、2017年以降、主に企業の研修を受け入れているのが、ポーラ美術館(神奈川県・箱根)です。「ニューヨーク近代美術館(MOMA)では、1980年代から鑑賞教育を行っています。知識偏重型の美術鑑賞ではなく、どんなことでも自由に発言をしていい、多様な意見を受け入れる。つまり、感性の教育が世界中に広がりました。私たちが展開しているワークショップもこれと同じです」(学芸員・工藤弘二さん)

 「見えるものを言語化する力」「伝える力」「考察する力」「多様性を認識する力」の養成に加え、「メンバーの声を引き出し、ひとつに紡ぐリーダーシップを体験する」ことを狙いの一つに掲げており、ファシリテーターも参加者が体験するのが特徴です。冒頭では、「参加者の意見を引き出し、対話と思考の活性化を促進する」というファシリテーターの役割についても説明されました。

 「大人数で絵を見て議論をする機会は、あまりありませんよね。同じ絵を見て話し合ううちに、たとえ違う意見だったとしても相手に敬意を持ち始める。深いところでつながるチームビルディングができると思います。さらに、最近では、メーカーで商品開発やマーケティングを担当する部署の方が、独自性を発揮できる思考法を養うために私たちの研修を受講しました」(ワークショップの立ち上げから関わる学芸員・今井敬子さん)。これまでにメーカー、金融、小売りなどさまざまな業種の方が研修として利用していますが、年内の枠は既に埋まり受け付けを終了するなど、注目が高まっています。
竹中工務店の若手社員20人が参加した研修の様子。10人1組に分かれ、まずは誰がファシリテーターをするかを決めます。絵を鑑賞し、ファシリテーターが「この作品で何が起きているか?」「どうしてそう思ったか?」などメンバーの意見を引き出し、最後にこの絵についての全員の意見をまとめて発表です。「自分が気にも留めていなかったことを他の参加者が指摘して驚いた。自分の価値観がすべてではないと実感した」(入社3年目の女性)、「自分の意見がすべて受け止められるのは新鮮だった」(入社2年目の女性)という声がありました
竹中工務店の若手社員20人が参加した研修の様子。10人1組に分かれ、まずは誰がファシリテーターをするかを決めます。絵を鑑賞し、ファシリテーターが「この作品で何が起きているか?」「どうしてそう思ったか?」などメンバーの意見を引き出し、最後にこの絵についての全員の意見をまとめて発表です。「自分が気にも留めていなかったことを他の参加者が指摘して驚いた。自分の価値観がすべてではないと実感した」(入社3年目の女性)、「自分の意見がすべて受け止められるのは新鮮だった」(入社2年目の女性)という声がありました

取材・文/市川礼子(日経ARIA編集部)