3 言葉にする力を鍛える

 「特に日本では理解されていませんが『マネジメントは言葉』なんです。言葉が使えないリーダーが何をするかというと、自分で腕まくりをしてやってしまう。自分がやってほしいことを言葉で伝えるのは極めてストレスがかかりますから、多くの人は自分でやってしまうのです。もしくは、事細かに指示をして『自分の分身』としてやらせようとします。ですが、そんなことをしたら相手の能力を引き出せません。

「言語化する能力」の重要性は高まる

 実現したいことを伝えて、相手の能力を引き出して実現させていくのが優れたリーダーです。それには『ビジョンを示す』必要があります。日本のリーダーはビジョンを伝えるのが苦手です。何を達成したいかの絵を描いて、言葉で伝える。リーダーにしか見えていないビジョンを、目に見える形で伝えなければならない。まさに今日、皆さんがここでやったのと同じことです。リーダーには絵が見えていて、部下には見えていない。その見えていない絵を自分で言葉にして説明をして『あ、それは素晴らしい状況だな』と感じさせられる人が、他者からモチベーションを引き出して組織の能力も引き出せる。

 これから先、『言語化できる』ことはものすごく重要な論点になります。特にロジックでコミュニケーションしても説得できないときに重要なのです」

「学術検証からも、アート鑑賞にはいろいろな効果があると分かっています」
「学術検証からも、アート鑑賞にはいろいろな効果があると分かっています」

 ワークショップの後、参加者からはこんな声が寄せられました。

・対話鑑賞が興味深かった。自分の考えを言葉にすることに加え、自分の考えていることをより納得いく言葉で伝えてくれる人、話を広げるヒントをくれる人、まったく気づかない見方を教えてくれる人など、5 人グループならではの良さがあった。
・他者との視点のズレが、対立や衝突なしに意識化できた。意見を尊重するこの方法を会議などでも導入できれば。
・自分ひとりで世の中を変えることはできないかもしれないが、一人ひとりが感性を磨いていくことで、世の中が豊かになるように思った。
・他の方と対話しながらの鑑賞は初めてだったが、対話の中で新たな気づきが生まれる瞬間が多くあり、とても有意義だった。
・さまざまな視点を聞くことで、自分がいかに固まった感覚でものを見ているか分かった。

 2019年度は秋にもこのワークショップの開催を予定しています。大きな価値観の転換点に立っている私たちビジネスパーソンに必要なのは、「何が人の心に響くのか」という審美眼を持つことだと山口さんは言います。

「審美眼は、素晴らしいものに触れて鍛えるしかない。素晴らしいものは、過去に多くの人たちの心を動かしてきた。それにたくさん触れるということは、過去の人たちが何に心を動かされてきたかを学ぶということ。たくさん触れることで何が刺さり、何が刺さらないかについての審美眼を鍛えることになるのです」(山口さん)