グループごとに異なる3作品を鑑賞した後に行われたのは、山口さんによるレクチャー。時には映像を流し、約1時間にわたって行われました。その一部をご紹介します。

見る力や美意識を鍛える…アート鑑賞で得られる5つのメリット

 「学術検証からも、アート鑑賞にはいろいろな効果があると分かっています。ただ、今の日本の人たちは『すぐに役に立つ病』にかかってしまっています。『読んですぐ頭が良くなる』とか、『聞くだけで英語が話せるようになる』とか。そういうものが世の中にたくさんありますが、それはだいたい詐欺みたいなものですよね(笑)。実際には、ものすごく長い時間がかかるはずですから。アート鑑賞も、今日ここに参加しただけで皆さんが帰る頃に劇的に何かができるようになる、と考えないほうがアートと長く付き合うことができます。

 あまりにも功利的な側面から役に立つからアート鑑賞をするとか、『○○ができるようになるから美術館に行く』と考えるとかえって長続きしなくなるでしょう。この前提の上で、ビジネスパーソンにとってアート鑑賞にはどのような意味があるのか。僕は、5つあると考えています

 なかでも印象に残ったのは、「2 感じる力を鍛える」と「3 言葉にする力を鍛える」。山口さんはこう説明します。

2 感じる力を鍛える

 「近年の脳科学の研究では、本当に優れた意思決定をするには、理性と感情が必要だと分かってきています。従来、論理的な思考は重要だと言われていますが、極めて複雑な意思決定をする際には、絵を見たり、音楽を聴いたりして心が動くときと同じように、『心を動かす』ことで正しい意思決定をしていると分かったのです。感情的になるな、感情を持ち込むなと言われますがそれは誤りであり、むしろそれを積極的に用いることで優れた意思決定ができるのです。

 つまり、心の中に沸き上がる感覚に耳を澄ますのが大事なのです。過剰に理性に流されないようにして、『自分の頭の中の理屈ではそうだけど、感覚的にしっくりこない』という感情を復活させるためのトレーニングとして、アート鑑賞はすごく有効なのです」