目覚ましい活躍で注目を集める2人が受賞

 ビジネス部門を受賞したのは、バレリーナの吉田都さん。9歳でバレエを始め、1983年ローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞を受賞して英国ロイヤル・バレエスクールに留学。卓越した技術と叙情豊かな表現力は“ロイヤルの至宝”と称され、88年から2010年まで22年にわたり英国の2つのロイヤルバレエ団で最高位・プリンシパルとして数多くの舞台の主役を務めた。19年8月に現役を引退し、20年9月に新国立劇場舞踊芸術監督就任予定だ。芸術へのあくなき探究とたゆまぬ研鑽により英国で22年にわたりプリンシパルを務めるという前人未踏のキャリアを築き、退団後も舞台に立ち続けながら後進を育成。そして今秋からは新国立劇場の芸術監督という立場で、世界に発信できる作品づくり、若手ダンサー育成の環境整備に取り組む。日本人バレリーナが世界で活躍する道を切り開いた先駆者であり、後進育成に力を注いでいる点も評価された。

 スペシャリスト部門は女優の水野美紀さんが受賞した。1987年にデビューし、テレビドラマや映画作品にも数多く出演。本格アクションもこなす実力派女優で、19年のNHK連続テレビ小説『スカーレット』では政治家に転身する元新聞記者、20年の『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』では強く知性的な法務省官僚など個性的な役を見事に演じ分けた。難役への挑戦など近年のドラマでの活躍はめざましく、視聴者を画面に釘付けにしている。CM、ナレーションなど多方面で活動する中、16年に結婚し17年に第1子を出産。独自の感性で綴られたエッセイも多くの女性の共感を呼んでいる。自ら主宰する演劇ユニット「プロペラ犬」では、脚本・演出も担当するなど、マルチな才能を発揮。公私にわたり女性から絶大な支持を受け、働く女性達を勇気づけエンパワーメントする存在であることが高く評価された。

 吉田さんは「西洋で生まれたバレエを、生まれ育った環境や骨格の違う日本人の私が踊る中で、数えきれないほどの壁にぶつかってきた。でも踊ることが何より好きで、舞台に立つこと、その舞台を最上のものにすることに集中していたら、壁は乗り越えられた。コロナ禍でダンサーにとって舞台に立てない辛い状況だが、文化やアーティストは必要不可欠な存在で生命維持にも必要だと痛感している。そのことを理解していただけるように、今後も良い作品創りやバレエ団のレベルアップに努めたい」とコメントした。

 水野さんは「飽き性な私が唯一13歳から楽しく苦しくもがきながら続けてきた役者業を評価してもらえたことは、そのまま私の人生を肯定されたような嬉しさがある。コロナ禍で時代の変化を感じつつ、不安も驚きも希望もいら立ちも全て仕事に還元し、表現することでたくさんの人と共有し、後世に伝えていきたい。家族との時間も大切にしてバランスを取りながら、作品を通して少しでも皆さんの心を晴らすことができるようにこれからも精進していきたい」と話した。

審査員を務めた松永真理さん
審査員を務めた松永真理さん

 審査員を務めた松永真理さんは「不安な今だからこそ、なくてはならない文化・芸術で英気を届けてくださる方に受賞してほしいという思いから、今回の授与が決定した。2人に共通するのは、身体だけでなく“心の体幹”が真上にすっと伸びているところ。それまでの自分に寄りかからず、常に変化を受け入れ進化し続けている2人の働き方、生き方から、ブレない軸を持つということは、かくも力強く、かつエレガントに挑戦していけるのだと教えていただいた」と講評した。

文/加納美紀 写真/野地康之

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