自分と向き合う「感情整理ノート」を作ってみよう

 ゆらぎ期の変化に付き合う、違ったアプローチ方法もある。それは「メンタルトレーニング」だ。その方法を、メンタルトレーナーの田中ウルヴェ京さんに教えてもらった。

田中ウルヴェ 京(たなかウルヴェ みやこ)
日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士/国際オリンピック委員会(IOC)マーケティング委員/ソウル五輪シンクロ・デュエット銅メダリスト
氏名(しめい)1967年東京生まれ。1988年ソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダル獲得。89年~99年、日・米・仏のコーチを歴任。91年より渡米し、セントメリーズカレッジ大学院修士号を取得、アーゴジー心理専門大学院、サンディエゴ大学院で認知行動療法等を学ぶ。2001年帰国後、トップアスリートから一般までメンタルトレーニングを指導、心理学をベースにした企業研修や講演等を行う。現在、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)・パラリンピック車いすバスケ男子日本代表のメンタルトレーナーを務めている。報道番組レギュラーコメンテーターも多数務める。夫はフランス人、二児の母。

 変化に振り回されず、ポジティブに乗り越えるにはどうしたらいいか。そう尋ねると「まず最初に伝えたいのは、変化に振り回されたっていい!ということ。変化や未知のものに対して不安を感じるのは当たり前、むしろ振り回される自分を敏感に感じてほしいですね」と答えてくれた。

 振り回される=しんどい、というネガティブなイメージがあるが、まずはちゃんと振り回される自分の状態を知った上で、それを言語化し、自分の「そもそも振り回されている本当の原因は何か」を紐解いていくプロセスが大切だという。日本人は特に、振り回されて疲れてはいけないと考えたり、「何歳だから」「リーダーだから」こうあるべきという枠組みに捉われてしまう。「枠組みがあって、そこから外れることが怖い“べき思考”もしんどさの原因。そういう人は自分の本当の感情や思考と向き合わずに、枠組みばかりを見てしまうんですよね」

 自分ときちんと向き合い、根源にあるものを紐解いていく上で役に立つのは“感情整理ノート”。実際のメンタルトレーニング指導では、ノートに、以下のように自分の感情や状況を書き出していくという。

感情整理ノート
(1)自分の感情を書き出す
(落ち込む、悲しい、不満など)

(2)その感情の原因が何かを考える
(上司との人間関係、仕事のミス、自分のキャリアへの心配など)

(3)なぜそう感じたか、理由を書き出す

 溜め込んだ感情を書き出していくプロセスを、田中さんは“感情のおなら”と呼んでいる。

 「たとえば、職場でイライラするとして、その原因が苦手な上司であるとする。大抵の場合、この状況で、みなさん“感情のおなら”を我慢するわけですよね。そりゃ上司の前で“あなた見てるとイライラする!”とは言わない。でも、自分一人になったらイライラした自分をちゃんと認めて言葉に出すことが“感情のおなら”です」

 “あの上司のことは苦手だからイライライする”と言語化し、きちんと感情を外に出してみると、次に進めると田中さんは言う。

 「なぜ苦手なのだろう?と考えれば、上司の私に対する、この言葉が嫌なんだと気づいたりする。すると言葉自体に意識がいくので、そういえば、この上司だけに限らず、この言葉を自分に言う他人には、誰に対しても腹が立つんだ、と気づいたりするわけです(笑)。そうすれば、“苦手な上司”がイライラの原因ではなく、じつは解決しなければならない課題は自分の中にあるのだと発見できたりします」

 その結果、次のようなステップを踏めるようになるという。

(1)感情の言語化
(例:イライラ)

(2)感情のきっかけの明確化
(例:上司)

(3)感情の理由
(例:上司からの言葉)

(4)本当の原因
(例:この言葉に敏感な私)

(5)課題解決
(例:じゃあどうするか?私にできることは何か?具体的行動を考える)

 「このプロセスを自分で作れるようになれば、振り回される原因をどんどん見つけていけるわけですから、たとえ振り回されても、自分ができることは何かに注意を向けられ、自分の行動を選べるようになります」と田中さん。

 原因がひとつではない場合は、すべてを書き出してみること。できれば1日1回、所要時間は5~10分で構わないので、夜寝る前にその日を思い返して書き出すのがおすすめ。ただ、はっきりと感情や現状が書き出せればいいが、漠然と「正体のわからない不安」を抱えている場合には、どうしたらよいのだろうか。

 「なんとなく不安だという人に“詳しく教えて”と聞くと、実は不安の種は全然別なところにあって、正体が見えていることばかりだったりします。本当はお姑さんにイラついているのに、そんな自分はよくないと思って自分自身にすら隠していたり。本当の自分の感情と向き合うのは勇気がいることですが、それができれば、大きな最初の一歩を踏み出せたと言えます」

身体的なケアも、まずは自分と向き合うことから

 体調が悪いと気が弱くなったり、イラついたり、歳を重ねるごとに、女性の体とメンタルが深く結びついていると感じる人も多いはず。「心で我慢していることは、必ず体にも出てくる」と田中さんは注意を促す。その根底にあるのは、トータルペインという考え方。心理的な痛み、身体的な痛み、社会的な痛み、スピリチュアルな痛み、全て合わせて“トータルペイン(全人的痛み)”と言われ、どれかひとつだけを取り除くのではなく、病気の治療に際しても、心理的な原因を見つめていく必要があるという。
 「心と体は密接に関わりあっていて、それは自分にしかわからないものです。どちらの健康も、まずは自分と向き合うことから始まります」

 これから変化の歳を迎える人や、今まさに変化の真っ只中にいる人は、まず何から始めてみればよいのだろうか。

 「自分の感情や環境の変化に振り回される自分に気づいてほしい。嫉妬もするし、心や体が揺らぐのも当たり前。まずはそんな自分を許して、応援してあげてください。自分の本当の気持ちに向き合って、こうなりたいという具体的な手段に気づければ、どんな変化にも柔軟に対応できるようになります。失敗や変化こそ成長の糧。年を重ねることは学びが増えるということです。何より、自分の感情に素直になることは、人生の醍醐味のはずですから」