美容家の佐伯チズさんが筋萎縮性側索硬化症(ALS)により、2020年6月5日に亡くなった。享年76。健康美容雑誌「日経ヘルス」での連載企画や日経グループの講演登壇の常連メンバーだった佐伯さんをしのび、追悼記事をお届けします。

人と比較しない肌ケア、自分らしさを大事に

 自らを「美肌師」と名乗り、肌のケアを通して女性たちに元気を与え続けた美容家の佐伯チズさんが2020年6月5日に76歳で亡くなった。今年3月、筋委縮性側索硬化症(ALS)の診断を受けたことを自身のブログで公表。ブログの動画メッセージでは、「私は負けません。皆さんも自分を大切にね、自分らしくなるのよ!」とエールを送ったばかりだった。

 佐伯さんが提案したスキンケア方法「ローションパック」は手軽さとその効果で大ブームとなり、シートマスクの元祖になったといえる。日経グループの女性向けイベント「WOMAN EXPO」の講演も毎回立ち見が出るほどの人気で、健康美容雑誌『日経ヘルス』では7年半にわたり連載し、歴代最長。3年間連載を担当していた記者が、その足跡を振り返りながら追悼する。

佐伯チズさん(享年76歳)
佐伯チズさん(享年76歳)

 「定年を終えた、小柄な女性という感じに見えた」。2003年の夏ごろ、当時の『日経ヘルス』副編集長が、連載を依頼しようと佐伯さんの自宅を初めて訪れたとき、そんな印象を持ったという。

 佐伯さんはその春、クリスチャン・ディオールを定年退職し、美容家として独立。美肌理論をまとめた本『佐伯チズの頼るな化粧品! 顔を洗うのをおやめなさい!』(講談社)を出版した。「お金をかけなくてもきれいになれる」「洗いすぎは肌を汚す」など、従来の常識を打ち破る佐伯式の理論は美容界に革命を起こし、ベストセラーとなった。

 連載を読み返すと、佐伯さんが伝えたいことは終始一貫していたことが分かる。まずは自分の肌をよく見て、触れてみる。シミが……シワが……と欠点を探したり、人と比較したりするのではなく、いいところも悪いところも客観的に見つめてみる。そして、その日の肌の調子に合わせたケアを続けていけば、肌本来の美しさが引き出されると同時に、「自分らしく生きる」ことへとつながるということだ。

 「WOMAN EXPO」の講演では、佐伯式スキンケアの代名詞ともいえる「ローションパック」で整えた白い素肌を、誰でも惜しみなく触らせながら会場内を歩いて回り、「やわらかい!」「手のひらが吸い付く!」と驚く参加者に向けて、もっと自分に自信を持ってと、熱く語りかけた。

WOMAN EXPOでのひとコマ
WOMAN EXPOでのひとコマ

 「手のひらで肌に優しく触れて、自分の肌と向き合うことが、きれいになるためには大切なの。それには、五感を意識的に活性化させて、見るもの、触るもの、何でも興味を持つことです。キレイ!ステキ!と、心の中の感覚をもっと意識していくと、自分の中に眠っているものがどんどん生きてきます。そうすると、お仕事でも、ものすごく変わっていきます。考え方が変わり、心が変わるから。私にもできる!と、もっと自信を持ってほしいんです」

佐伯チズさんの「生き方指南・美肌指南」 2018年初夏のスペシャル/佐伯チズ(サロン ドール マ・ボーテ代表)